■アンシェヌマン・・・1章・5



どうしても逃れられないのならせめてシャワーだけは浴びさせてくれと懇願し、夏樹は小ざっぱりとした後に再び男と口づけを交わした。

二時間レッスンを続けた後だ、いくら強姦紛いの見知らぬ男相手とはいえ自身が汗臭いままSEXをするなど耐えられないし、レッスン着の上に上着を羽織って来ただけのような恰好を相手に知られたくはない。

何故この男───黒川仁[くろかわ・じん]と名乗った男への抵抗を夏樹があっさりと止めてしまったのかというと、ヤクザかもしれない男への恐怖心が七割、黒川が男前だというのが二割と、どうにでもなれという諦めが一割という心情からだ。

「ン・・・」

場所をメインルームから隣接する寝室へ移し、全裸となった夏樹がベッドの上に横たわる。

この寝室も他の部屋と大差がなくシンプルな内装ではあったがまだ良い方で、大きなベッドとサイドボード、その上にテッシュが置かれていた。

黒川は頻繁にこのような事───見知らぬ男や女を連れ込んだりとしているのだろうか。

自分には関係が無いと思いながらも、一度気になるとチラチラと脳裏を過ってしまう。

「なんだ、案外良い身体してるじゃないか」

スーツのジャケットとネクタイを脱いだだけの格好の黒川が、一糸纏わぬ夏樹へと覆い被さった。

筋張った彼の手が夏樹に触れれば、肌を確認するように胸から腹そして下腹部へとその指先が降りて行く。

バレエは全身運動であるし、女性を支える為には筋力も居る為レッスン以外にスポーツジムにも通っており、夏樹の身体に無駄な肉は殆ど無く腹筋は薄らと割れている。

「ただのリーマンって訳ではなさそうだ。スポーツでもやってるのか?」

黒川が夏樹の着色されウエーブも掛かる髪をくしゃりと撫でた。

確かに髪型も体型も、一般的な会社員というには希少なそれだろう。

間近に顔を寄せる黒川から視線を避けながら、夏樹は曖昧に頷いた。

「スポーツ・・・はい、まぁ、その・・・はい」

「なんだ、煮え切らないな」

「いえ、マイナースポーツなんで・・・」

初対面のこの男にバレエをしていると知られたくはない。

自分の選んだ道を決して恥じている訳ではないが、子供の頃からの経験として男がバレエをしているというのは嘲笑の対象になるのだと十分過ぎる程に理解をしている。

好きで好きで、人生の全てを掛けて来た事だからこそ、馬鹿にされるのも笑われるのも辛くてならないと、大抵の場合夏樹は自身の職を告げる事はなかった。

「マイナースポーツか。仮にもスポーツ選手を拾えたのは運がついていたな。それに・・・ここもそこそこだ」

「そこそこ、って・・・ンっ」

黒川の指が夏樹の下肢部を探り、茂みを掻き分けペニスを握る。

まだ項垂れたままのそこは、他者の温もりを知りドクリと震えた。

「泣き叫んで逃げないなと思ってはいたが、お前もゲイか」

「そんな・・・ところ、です・・・あっ」

男に触れられて立ち上がりを見せるペニスから夏樹の性癖を察したのだろう。

そのペニスを扱きながら唇の歪みを深めた黒川は互いの胸を合わせ、手持無沙汰の夏樹はシーツを握りしめてはせり上がる嬌声を耐えた。

SEXをするのは久しぶりであるし、自慰もここ暫くご無沙汰で、夏樹の身体に溜まる物があったのは事実だ。

そんな中、完全に同意の行為ではなかったにせよ、他者により与えられる刺激は強い快感となる。

加えて黒川の手つきは巧みだ。

初めての相手とSEXをしたどころか握られたのも今が初めてだというのに、夏樹の好きな場所を好きなように刺激される。

「っん・・・くっ・・・・」

「意地を張るな。良い声で鳴いて見せろ」

「そん・・・なぁっあ・・・・」

亀頭を指で繰り出され、そこばかりを撫でられる。

敏感な部分への刺激は快感よりも辛いものを感じさせられ、夏樹は無意識のうちに腰を突出しながらも嫌々と首を振った。

先端から、蜜が伝うのが解る。

恥ずかしいまでに早々に、快楽の高ぶりが登り始めている。

仕方がない、今日は随分と久しぶりの性行為で、悔しいが黒川は男前でバリトンの声は耳からも犯して行くのだ。

「あっ・・・やめ・・・」

開けきらない瞼で黒川を眺めると、顔のすぐ近くに居る彼は無言のまま夏樹の唇を塞ぎ扱く手つきを早急なものへと変化させた。

黒川の舌が、夏樹の口内を弄ぶ。

熱い舌同士を絡め合わせられれば腰に力が入らず、同時にペニスを扱かれているものだから逃げられないものを感じる。

快感が、止められない。

「あっ・・はぁ・・・や、やめ・・・あぁ」

自分でも、何を言っているのか、何を言いたかったのかも解らない。

最後はただただ快感を追うのに必死で、喉を詰まらせ息苦しさを感じた時には、夏樹は腹に熱い証を放っていた。

「早いうえに、多いな。男は久しぶりか」

「・・・えぇ、まぁ・・・」

「なら、もっと可愛がってやる」

夏樹から離れ、黒川は汚れた手をティッシュで拭い脱衣を始める。

煌々と明かりの灯された室内でワイシャツを脱ぎ捨てた彼は、夏樹よりも更に立派な体格を誇っていた。

首の太さや着衣のままでも解る範囲からでもか細くあったり華奢であったりとする訳ではないとは思っていたが、胸も腕もがっしりと筋肉に覆われている。

元の骨格にも恵まれているのだろう、胸の厚みがなんとも男らしい。

だが、その黒川の肩。

そこにふと見慣れない物が見えた。

「・・・あ・・・刺青・・・」

「あ?あぁ。なんだ、彫もん入った奴は初めてか?」

「そりゃ・・・あ、はい」

肩に片鱗の見える彫り物は、その続きの多くが背中に広がっているようだ。

刺青、それもこんなにも立派な物を入れた者と寝る機会などそうそうあるものかと、苦言にも似た返答を返しかけた夏樹は言葉を呑み込み顔を反らした。

やはり、黒川はヤクザなのだろう。

いくら面持が厳めしくても、心のどこかでは違えば良いのにと思っていた自身に気が付いた。

「待たせたな」

「・・・ぁ・・・、あ」

一度達した直後という事もありどこかぼんやりとしていた夏樹に、下着も全てを取り払った黒川が再び覆い被さる。

啄むようなキスを与えられ、それと同時に太ももへ熱く弾力のある物も触れた。

黒川のペニスは既に強い高ぶりを示しており、それが何故か夏樹の赤面を誘う。

「お前・・・夏樹つったか?夏樹は身体が出来てるからな。抱き応えがありそうだ」

「そんな・・・」

「さすがアスリートだ、足も違うな」

「あ・・・」

太ももを撫でられ、そして片方を高く持ち上げられる。

本来あまり太くなってはいけないのだが、跳躍も多く行う為にどうしても筋肉はつきやすくなる。

あまりその話題を引き延ばすと種目を言わされそうだと、夏樹は無言の抵抗として唇を結んだ。

とはいえ、黒川も話を掘り下げるつもりはなかったのか何も言わないまま、太ももそして尻の奥、夏樹の秘められた場所へと触れた。

「ここは初めてじゃないんだろ?」

「・・・えぇ、まぁ・・・」

「だが、久しぶりってか。十分優しくしてやる。持ってろ」

上げられた足を渡され、夏樹は自身のそれを抱える。

眼下では黒川が手元で何やらをしており、カチャリとプラスティックが嵌る音がした事から潤滑油系統の何かを準備していたのだろう。

女性経験の一切ない夏樹にはSEXとはそういうものであるが、道具を使わなくては事が進められないというのは何とも不便だ。

「っぁ・・・」

「力、抜いてろよ」

ジェルの冷たい感覚と共に、秘部へ黒川が触れる。

今度は先ほどとは違い確認をするような手つきではなく、何度か入り口を撫でた後に黒川の指が体内へと差し込まれた。

いくら久しぶりとはいえ拒絶感を伴う程の違和感を感じるまでに経験が浅いわけでもなく、潤滑油の力を借りたそれは痛みを感じはしない。

「あ・・・はぁ・・・」

「元気だな、夏樹も、ここも」

「良いから・・・するならさっさと・・・」

「そうさせてもらうよ」

後孔を刺激された事により、夏樹のペニスはもう一度高ぶりをみせている。

達したばかりだというのに恥ずかしくはあるが、ペニス以上に後ろは久しぶりなのだ、身体が喜んでいると否定出来はしない。

からかうように笑った黒川は、一旦指を抜くとその本数を増やし夏樹の中へ戻した。

「んっ・・・ふ・・・」

「もっと声を出せば良いだろ。堪えるのは夏樹も辛い筈だ」

「そんな・・・ぁ・・・・やっ」

さっさとしろ、と言ったのは夏樹だが、言葉通り黒川は次々に指を増やし内部を広げてゆく。

とはいえ久しく使われていなかったそこの限度は直ぐに達し、ある程度まで来るとただ広げる為だけに体内を弄っていた黒川は見切りをつけたのかそこから指を引き抜きティッシュで拭った。

「も・・・う?」

「さっさとしろと言ったのはお前だろ。何、辛いのは一瞬だけだ」

「そんなっあっ・・・・」

黒川が夏樹の両足を抱え、秘部に彼のペニスが宛がわれる。

指とは全く違う弾力をそこに知り、期待と不安が過った。

「力、抜いてろよ・・・お前、どんだけ足曲がるんだ?」

「いや、あの・・・」

いよいよだと身構えた時、黒川がまるで関係のない事で驚きの声を上げた。

前後にも左右にも夏樹の足は180度に開くので驚かれた経験は初めてではないが、だからといって最中にそれを指摘されるのは萎えてしまいそうなげんなりとした物を感じてしまう。

「入れないんなら・・・」

「誰もンな事言ってないだろ。ご希望のモン、味あわせてやる」

「っ・・・」

夏樹の足を容赦なく胸へと倒し、互いの胸を密着させながら黒川は夏樹の体内へと雄を進める。

その瞬間、夏樹は喉を詰まらせた。

指とは比べものにならない質量に、身体が押し広げられる。

こんなにも雄々しいペニスは初めてだ。

思えば挿入前に彼の持ち物を確認しなかったが、これ程までとは考えてもいなかった。

たっぷりと塗られた潤滑油があってしても、痛みが身体を強張らせる。

息をしなくてはならない、力を抜かなければ余計に辛いと、経験で知っている筈だというのにあまりの苦痛にどれも上手くは行えない。

「っは・・・はぁ・・・」

「おい。力、抜いてろつってんだろ」

「出来・・・ない・・・抜いて・・・・」

「俺は抜かねぇ。ほら、落ち着け」

ふと、優しい感触を感じる。

それが頭を撫でられているからだと、そうしているのが黒川であると解った時には、夏樹は自然と力を抜く事が出来た。

黒川は、強姦紛いに無理やりSEXを強要してきたくせに、無理やりには抱かないのだ。

そう思うと、呼吸も戻り大きく息が吐けた。

「黒川、さん」

「名前呼んだのは初めてだな。だが、出来るなら下の名前で呼んで欲しいもんだがな」

「・・・仁、さん」

「覚えてたか」

「えぇ、まぁ・・・」

「動くぞ」

「んっ・・・」

夏樹の頭を抱えながら、黒川が腰を進める。

力を抜き彼を受け入れようとしても、その質量に内部が痛む。

だが、それも二度三度、それ以上に律動を重ねられれば次第に痛みとは違う物を感じ始めた。

「あっ・・・あ・・・」

「良くなってきたか?夏樹」

「っ・・・ん・・・いい・・・気持ち、いいっ・・・」

内部を黒川のペニスが擦り上げる度に、背中に痺れに似た感覚が走る。

二人の身体の間で揺れる夏樹のペニスは、強く張りつめながら蜜を滴らせた。

こんなにも快感を得られたのはいつ以来だろうか。

一人では到底味わえないし、誰かと交わっていてもここまでの快楽は記憶にない。

「あっ・・・だ、だめ・・・」

シーツを握りしめていた手がそこから離れる。

もう、このような薄く頼りの無い物を握っているだけでは耐えられない。

夏樹は、黒川の背に両手を回した。

強くしがみ付く様に抱きしめ、胸も内部も黒川との密着を深める。

今はもう、この男とSEXをしている理由も、この男が何者であるかというのも考えられない。

自分がここまで自制心の無い人間であったのかという事も考えられず、夏樹は黒川に身を委ねながら荒い息を繰り返した。

「あっ・・・だめ、気持ちいい・・・」

「可愛い事、言うじゃねぇか。約束は守ってやる」

「あっ・・あっ・・・・んっ」

黒川が耳元で何と囁いたのか、残念ながら夏樹には届かなかった。

ただただ、与えられる恐ろしいまでの快感に溺れ、知らぬ内に腰をも振るっている。

黒川の広い背中を抱きつきながら、夏樹は痙攣のように身体を震わせ二度目の吐性を果たしたのだった。







  


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