■アンシェヌマン・・・2章・2



夕方黒川から連絡が入っていた夏樹は、その日最後のリハーサルを終えるとスタジオの最寄駅のロータリーで彼と合流した。

夏樹の職が彼に知られて以来、黒川は呼び出しに対し必ず自身が運転する車で夏樹を迎えに来てくれる。

その後はシティーホテルか黒川の自宅に向かう事が多いが、時間によっては食事をする事もあったものの、何をしていても二人の間に会話は少なく未だに夏樹は黒川の事を然程知りはしなかった。

知りたくないのかと言えば必ずしもそうだという訳ではないが、積極的に知りたいとも思わない。

結局のところ、黒川との関係は大抵において『解らない』事が多いのだ。

今日は時間も遅い為黒川の部屋へ直行した二人は、スタジオでシャワーを浴びて来たからと言い夏樹は寝室に入るなり身体を許していた。

「んっ・・・あ・・・は・・・・」

「どうした、もっと声出せ。よがってみせろ」

「そん・・・な・・・・あぁ・・・」

バックから腰を突き立てる黒川は、夏樹の腰を抱く一方、そのペニスも手中に収めると強く握りしめた。

ただ強いだけではない。

夏樹の好きな風に好きな場所に触れるものだから、いやがおうに競り上がる声は高くなる。

「はぁ・・・あぁ・・・や、やめ・・・」

「これが良いんだろ?あ?」

「あぁ・・・・」

背中に黒川の胸が触れる。

互いの肌はじっとりと汗ばんでいた。

後ろも前も、気がどうにかなってしまうのではないかと思う程気持ちが良い。

どこがどう、などとはもはや考えられず、言葉に出来ない快感がただただ嬌声となり喉をせり上がった。

「もう・・・もう・・・出ちゃ・・・・」

「別にいっても構わないがな。俺はまだお前を味あわせてもらうぞ」

「そ・・・んな・・あっあぁ・・・やっ・・・仁さんも・・・仁さんもいって・・・」

胸をシーツに預け、首だけで振り返る。

すぐ肩の上に黒川の顔を見つけ、夏樹は彼へと腕を伸ばすとその唇を求めた。

「あっ・・・はぁ・・・・」

黒川の薄い唇が好きだ。

そこで舐められるのも食まれるのも好きだが、口づけを交し合うのが一番好きだ。

「・・・上手い方法覚えやがって・・・」

唇を重ねながら黒川が小さく呟く。

その意味を理解するよりも先に、キスの主導権は黒川に握られてしまった。

熱い舌を擦りあわせ、ザラリとした感覚が背筋を震わせる。

もう、我慢など出来はしない。

無意識のうちに腰は振るわれ、夏樹は自ら積極的に黒川を感じた。

「んっ・・・んっあぁ・・・・はぁ・・・」

「そんな顔されたら、俺も持たないだろ・・・」

唇を重ね合ったまま、黒川は両手で夏樹の腰を掴み律動を速めた。

ペニスに触れたい。

だがもうそのような暇もなく、二度三度と黒川が体内でペニスを打ち付けると、夏樹は鋭過ぎる快感から息さえも出来ないまま達した。

そして間もなくして、黒川もまた夏樹の中に性を放ったのだと、後孔から彼がいなくなる事で知った。

「はぁ・・・ハッ・・・」

シーツの上に夏樹がぐったりと全身を預ける。

体力には自信がある方だと思っていたが、黒川と身体を重ねるようになりそれが間違っていたと何度も思い知らされた。

こんなにも疲れるSEXは知らない。

吐性の後はいつも指先すら動かすのが辛い状態まで追いやられている。

「大丈夫か、夏樹。風呂は?」

「・・・後で。今は無理です」

それでも、ここ最近は意識を失う事はなくなった。

それは黒川がセーブをしてくれているのか、夏樹にこの手の体力もしくは免疫が付いたのかは定かではない。

「仁さんは先どうぞ」

「あぁ。・・・水、飲むか?」

「・・・ありがとうございます」

返事を待たずに黒川がミネラルウィーター入りのペットボトルを差し出したので、だるい腕を持ち上げ受け取った。

冷え切ったそれは、火照った身体に気持ちが良い。

「夏樹、明日も仕事か?」

「仕事・・・ってうかレッスンはありますけど」

黒川が、というよりも二人の間で互いに仕事の話をするのは珍しい。

二人とも己の職については触れられたくないという考えのようで、特別取り決めもしないまま話題に上らせる事はあまりなかった。

だというのに突然の黒川の珍しい言葉に、夏樹はうつ伏せのままベッドサイドに腰掛ける黒川を見上げた。

そこからでは彼の表情は上手く解らない。

「どうしてですか?」

「疲れているようだったからな。最近きちんと休んでいるのかと思っただけだ。月金の会社とは違うんだろ?」

「えぇ・・まぁ・・・。でも今週は、休みですから・・・」

「そうか」

何故彼は、今日に限ってこのような事を言ったのだろう。

確かに今週も先週も日曜日は舞台だった為、丸一日の休みは暫くない。

けれどそのような時期はいつでもある事で、自分自身が特別疲れている自覚などまるでなかった。

あるとすれば、今こうして激しいSEXをした事による消耗だけだ。

「・・・そう思うなら、もっと手加減してくれても良いのに」

半分冗談のつもりで夏樹が不満を口にする。

けれど黒川は、何も言わないままベッドサイドから立ち上がっただけであった。



  

+目次+