■アンシェヌマン・・・2章・9



うつ伏せの夏樹に、黒川が肌を重ねる。

そして体内に突き刺された黒川のペニスが、ゆっくりと律動を繰り返した。

「あっ・・・は・・・・」

「夏樹、どうだ?良いんだろ?」

「っ・・・い、良い」

じっとりと、ゆっくりな動きだからこそ染み渡るように快感が広がる。

良いなんてものではない。

元より自慰を頻繁に行うタイプではなかったが、黒川と知り合って以来より一層その手は遠のいている。

身体は、もう黒川でなければいけないのだと言っているようにすら思えた。

「仁さん・・・仁さんは?っ・・・はっ・・・ぁ俺、で・・・」

「あぁ。最高だ。わざわざ来ただけの、事はあるな」

「あぁっ」

黒川が腰を押しつけ夏樹の体内を突き上げる。

見事な質量を誇る黒川だからこそ触れられる部分を刺激され、夏樹はシーツと己の身体に挟まれたペニスにドクリと脈を感じた。

黒川のペニスが好きだ。

黒川とのSEXが好きだ。

けれど、それだけだと思っていた。

身体だけの関係。

望んだ・望んで居なかったというのは問題ではなく、事実として二人を繋いでいるのはこうして身体を交じり合わせる事だけ。

そう、思っていたというのに。

「あっ・・・は・・・・仁・・・仁、さん・・・・」

「それも、良いな」

「・・・ふっ・・・ん・・・なに?」

「仁と、呼べ。なぁ、夏樹。呼んで見ろよ」

背中に胸を密着させた黒川が、耳元で心地よい低音の声音で囁く。

まるで秘め事を話せれているようなそれに背中に痺れが走る感覚を知り、夏樹は息を呑んだ。

「・・・仁・・・」

ただ呼び方を少し変えただけだ。

たった二つの言葉を言わなくなっただけだ。

だというのにそれが、なんとも特別な事のように思える。

形の無かった想いが、一つに固まってゆく気がした。

「それで良い。これからは、そうやって呼べ」

「わ、わかりました・・・ぁはぁ・・」

「それも要らんな。普通に喋れ」

「でも・・・」

わざとらしく乱暴にペニスを振るった黒川は、けれどそれと同じくして夏樹の髪を撫でた。

そのアンバランスな行為の、どちらがより彼の本心なのだろう。

染み渡る快感に深く思案を張り巡らせる事は困難だ。

「ベッドん中じゃぁ裸だろ。立場も年も仕事も、何もかも忘れたって良いんじゃねぇのか?」

「・・・はっ・・・仁」

立場も、仕事も。

黒川との間にそのような話をする自体多くはない。

知っているのはお互いの職業だけ。

夏樹がダンサーであるというのは身体についた筋肉だけがそれを主張し、黒川がヤクザであるというのは背中に広がる極彩色がそれを匂わせている。

それさえなければ、二人は何者でもない。

詭弁で、綺麗事だ。

けれど今は、それに縋りたいと思った。

「仁、気持ちいい・・・もっと、もっと奥・・・」

「素直じゃねぇか。お前は、身体も全部最高だ。ほら、腰あげろ」

「あっ・・・は・・・・そこは、ダメ」

「あ?こんなに汁たらしといて何言ってんだ」

「だから、ダメだって・・・・」

半ば無理矢理夏樹の腰を持ち上げた黒川が、その下で息を潜めるそのペニスを握った。

平均サイズの夏樹のそれは今はこれでもかと張りつめ、充血した先端から欲望の潤みを見せている。

後ろだけでもこれでもかと快感を得ているのだ。

更にそこを刺激されれば、どうなるのか目に見えている。

けれど嫌だ嫌だと首を振る夏樹を無視し、黒川は大きな手のひらで握ったペニスを緩やかに扱いた。

「あっ・・・はっ・・・だめ、だめ・・・止めて、仁」

「なんだ、痛いのか?」

「違う・・・そうじゃなくて・・あっはぁ・・・あぁ」

「良い声で鳴くじゃねぇか。此処も、俺を締め付けて離さねぇ」

「ふっ・・・ぁ・・・」

痛い訳ではない。

けれど、強すぎる快感が辛くはある。

唇を閉ざす事も出来なくなった夏樹は、代わりに瞼をきつく閉ざす。

飲み込めなかった唾液がシーツにシミを作り目尻からは生理的な涙が流れる。

気持ちが、良い。

言葉に出来ない程のそれは、ただただ高い嬌声ばかりを繰り返すばかりだ。

「だめ、もうだめ・・・」

「いきてぇのか?」

「いきたい。いく・・・もう・・・いく」

「あぁ、いけ。俺ももう限界だ。夏樹が、締め付けるからな」

黒川のからかうような言葉も、もはや夏樹には届かない。

彼に握られたペニスも、彼の進入している後孔も、彼の胸が触れる背も。

その全てが、燃えるように熱い。

もう、無視など出来はしない。

「あっ・・・は・・・仁、仁・・・すっ・・・はぁっ」

「くっ・・・ぅ」

目の前が白みがかり、シーツの上に性を放つ。

尻に何度も小刻みに黒川がぶつかる事から、彼もまた吐性をしたと理解した。

「はぁ・・・あぁ・・・」

余韻に浸りながらも荒い息を繰り返す夏樹は、言葉を放つ気力すらない。

じっとりとした疲れを感じる身体は、黒川と交わっている時と同等に気持ちが良かった。

SEXの最中に見つけた答えなど、なんとも安っぽい。

けれど、元々SEXから始まった関係だ、それが見合いなのかも知れないとも思う。

そう脳裏に過ぎったのを最後に、夏樹はあまりの疲れから思考を放棄したのだった。



  

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