■アンシェヌマン・・・3章・11



空港から黒川の自宅へ向かうと、部屋に到着するなり寝室へと引きずり込まれていた。

シャワーを浴びさせてももらえず、一息つく事すら叶わなかった。

けれどそこに不満を告げる間もなく唇を奪われれば、流されてしまうのはすぐだ。

「元気じゃないか」

「・・・そりゃ、ご無沙汰ですから」

「誰ともしてないのか?」

「誰とするっていうんですか?」

「さぁな。右手か?」

「・・・ノーコメントです」

シーツの上に仰向けで横たわる夏樹へ黒川が覆い被さる。

ニタリとした笑みは狡猾で、この男を選んだのかと思えば少しだけ己の判断にため息をつきそうになった。

しかしそれは後悔ではなく、今から与えられる物と比べるとほんの些細なものだ。

散々に夏樹のペニスを弄んでいた黒川は、そこから手を離すと潤滑油を頼りに筋張った指を夏樹の後孔へと宛がった。

「くっ・・・」

「良い声出すじゃないか。俺を煽りたいのか?」

「そんなつもりじゃ・・・はっ・・・久しぶりで・・・だから・・・」

「だから?俺に早く食われたいってか?」

「・・・そう、受け取って頂いて、結構です」

最後に黒川と身体を交り合わせた日以来誰も触れる事の無かった場所だ。

そこへ贈られる刺激は甘美で、そして相手が黒川であると思えば殊更敏感になる。

腰を持ち上げ、アナルを黒川へと晒す。

そうすると彼の指は更に奥へと進入した。

「積極的だな」

「・・・嫌、ですか?」

「まさか。大歓迎だ」

「・・・あっ」

僅かな間引き抜かれたかと思った黒川の指は、しかし次の瞬間には本数を増やし夏樹の体内へ戻った。

体内を擦り上げる感覚も、そこを押し広げられる感覚も、夏樹から理性を奪ってゆく。

常人よりも柔らかい間接で大きく足を広げた夏樹は、両腕を黒川へと伸ばした。

「もう・・・もう。それは、嫌です。俺は、仁が欲しい」

「俺を無駄に煽るなと教えなかったか?」

「知りません、そんなの。俺はただ・・・」

「普段はストイックな顔をしてるくせに、ベッドの中じゃいやらしくなりやがって」

「ぁ・・・あ」

腕を黒川の背に回す。

今は見えないが二頭の獅子と大輪に咲き誇る牡丹の花の描かれたそこはとても大きく広い。

黒川の胸が夏樹の胸に重ねられる。

そうして彼の鼓動を感じていると、黒川は夏樹の深い部分を刺激し、それを最後にそこから指を引き抜いた。

今まで満たされていた部分が空白になればいっそ虚無感を感じる。

だからだろうか。

無意識のうちに夏樹のアナルはひくついていたようで、次にそこへ触れた黒川はからかうように笑った。

「可愛いな、お前は。どんどん溺れてしまいそうだ」

「な・・・なんの、話し・・・」

「お前は俺のもんだって話だ」

「・・・ぁ」

黒川が夏樹の足を抱えれば、猛るペニスをアナルに宛がい一気に腰を進めた。

内壁を押し広げられる感覚は、指など比にならない。

一ヶ月半もの間ご無沙汰だったそこは黒川をみっちりと包み込んだ。

「ぁ・・・は・・・」

「久しぶりの、夏樹だ」

「じ・・・じん」

「やっぱり夏樹は最高だな」

話すと同時に耳元に息を吹きかけられるものだから、届いた声も理解が追いつかない。

ただただ背に痺れが走り、無駄に張りつめていた緊張が解れてゆく。

柔くなった入り口から黒川が出て行く刺激に更に高い声が上がりそうになれば、夏樹は咄嗟に黒川の唇を奪った。

「仁・・・」

互いの唇を重ねる。

ふれ合ったそこから体温の高さを知ったが、舌を差し込んだ彼の口内は更に熱い。

ザラリと舌がふれ合い、背に回していた腕で黒川の頭を抱えると夏樹は攻めるように彼の舌を求めた。

「仁・・・じん」

舌を擦り、唇を食む。

その合間に零れる嬌声混じりの声が止められない。

そしてそれ以上に、黒川を求める感情が止められなくなってゆく。

「反則だろ、それは・・・」

「ぁっ・・・仁・・・なに?」

「今までで一番可愛いって言ってんだ。悪いが早いぞ」

「・・・あっ」

黒川を求め続ける夏樹に、唇を合わせたまま彼が囁く。

ぼんやりとした眼差しに映る彼の面もちは近く、互いの息が掛かり合う。

もう真っ当な言葉を見つける事も出来ず、夏樹は返答の代わりだと体内に収まった黒川を締め付けた。

ゆっくりと出入りをしているそれが与えるのはもどかしい甘さだ。

だが徐々にそれだけでは足りないのだと欲望が高まってゆく。

「仁・・・俺も・・・」

「明日の朝はどうなっても知らないからな」

明日も朝からレッスンがある。

今日一日レッスンどころか柔軟体操もしていないのだから、明日はきちんとレッスンに参加しなければならない。

普段ならば考えなくとも分かる公式だ。

けれど、今は何も考えられないでいる。

胸を合わせたまま夏樹の太股を抱え直した黒川が、ゆっくりと腰を引いた。

だがその律動は、二度三度と繰り返す度に速度をあげてゆく。

「あっ・・・ふっ・・・」

「くっ・・・良い声で鳴きやがって」

「仁・・・じん」

黒川のペニスが体内深くを突き上げ、彼の腹で擦られたペニスも密を絶やさない。

この快感は、ただ一ヶ月半の間が空いたから感じられるものではないようだ。

以前と今、大きく違うものがある。

「好き、仁・・・好き」

「俺もだ。愛してる、夏樹」

接合も、口づけも、ふれ合う肌は直接的な快感を与えられてゆく。

だが何よりも、通じ合った心は快感を増幅させてゆくのだろう。

もう迷わないと、逃がさないのだとするように夏樹は黒川を両手で抱きしめた。

「・・・もう・・・もう・・・あっ」

黒川が夏樹の良いところを狙えば、誘われかのように夏樹は早々に互いの腹の間に白濁を放つ。

それと同時に息が荒くなり、空気を求めて胸が上下した。

疲労はあれど満たされた気持ちは大きく、このまま眠りに落ちれば心地よいだろう。

だが身体を解放されるのがまだ随分と先である事は、確認をせずとも分かる気がしたのだった。


  

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