三城×幸田・だからお前は
【番外編】


明かりが灯り食事の用意されている家に帰る事がどこか当たり前になってきている。

数ヶ月前には想像も出来なかったその変化は、三城の様々な部分を満たし、癒しは更なる強みを生んだ。

今まで以上にバイタリティーに溢れた仕事ぶりは周囲の評価も高く、専門の物から専門外の物まで良くも悪くも多くの仕事を回されるようになっていたので、その日は特別忙しい時期では無かったものの、仕事は途切れずようやくキリがついたのは夜も更けた頃だった。

車で数十分の自宅までの道のりを愛車のBMWで飛ばす。

一度車通勤を知ってしまえば、ラッシュの電車に揺られて通勤するなど考えられない。

そうと言った時、幸田が何か言いたげに無言で唇を突き出したのを思い出し、三城は一人思い出し笑いを浮かべた。

三城に反論を寄越す事の少ない幸田だが、顔にはしっかりと出ているという事を本人はあまり解っていないようだ。

そこがまた可愛い所で、幸田の尖った唇を奪うのも三城は好きだった。

自宅マンションの駐車場に車を滑り込ませると、呼び出してすぐにやって来たエレベーターに乗り込みノンストップで自室のある階まで上がる。

誰に会う事も無く廊下を歩み、鍵の掛かっていなかった扉を開け中に入った。

「ただいま。」

玄関に入っただけでフワリと優しい料理の香りに包まれ、家庭的なそれについ頬が緩む。

今日の食事はなんだろうと考えつつ、リビングへと繋がる仕切り戸を開けた。

「ただいま、恭一。」

「春海さん、おかえりなさい。」

ソファーに座りテレビを見ていたらしい幸田は、三城の帰宅を知るとパッと明るい笑顔を浮かべて立ち上がりパタパタと駆け寄った。

小走りのその仕草が可愛く、思わず抱きしめようと腕を差し出した三城の手は、だが寸前で止められた。

「どうしたんだ、その手は?」

ニコッと笑っている幸田の白い手には、左の手のひらに痛々しく包帯が巻かれている。

ただグルグルと巻かれただけのそれは素人がそうしたと一見して解り、三城はその手を下からそっと持ち上げると、眉間に皺を寄せ何だとばかりに少し掲げて見せた。

「ちょっと、包丁で切っちゃって。でも、もう大丈夫ですから。ちょっと大げさに包帯まいちゃっただけで。」

「何をしていたらこんな所を切るんだ。それより病院には行ったのか?」

「いえ、そんな大層なものじゃなくて・・・」

「見せろ。深いようなら今からでも病院に行くぞ。」

「大丈夫ですって、本当に。三城さんも疲れてるんですから、ゆっくりしていてください。」

幸田はとんでもないとばかりに首を振ったが、その反応こそが三城の眉間の皺を深めキツイ口調にさせた。

「バカかお前は。俺の事よりも自分の事を考えろ。」

「僕の事、ですか?」

「傷でも残ったらどうする。」

「・・・えっと、僕は構いませんけど・・・三城さんは嫌ですか?」

「そんな事を言っているんじゃない。ただお前が・・・・」

「僕が?」

「・・・いや、なんでもない」

いつもの事ながら、幸田は自分自身に興味が無い。

どんなに優れた容姿をしているとか綺麗な肌を持っているとか、知っていて執着がないのか知らずに頓着がないのかすら解らないが、何せ大切にしようとしない。

自虐的とまでは言わないが、どこか投げやりにも思える幸田を三城はため息混じりに抱きしめた。

「どうして、綺麗なのだから大切にしないんだ。その手も、身体も・・・」

もちろん、中身も。

「え?えぇ?それなりに大切にしてますよ?僕だって痛いのは嫌だし、でもこれは事故で・・・」

「もっとだ。もっと大切にしろ。なにせ、これは俺のモノなんだがらな。傷をつけるなんて許さない。」

そうだこれは自分の物なのだと、三城は自分の言葉に頷いた。

幸田の身体も心も、魂までも自分のものだと言いたい。

だから幸田には自分自身を俺なんかよりもすっと大切にして欲しいと常々思っているのに。

いつまでたっても伝わらないもどかしさにも最近では馴れてきたが、けれど伝わらないという事を諦めるなど出来そうに無い。

「わかったか?」

「・・・・はい」

照れくさそうに肩をすぼめた幸田は、頬を少し染めて頷いた。

視線を伏せるその姿も愛しく、顎を掴まれた幸田はそのまま三城に唇を奪われたのだった。

*目次*