三城×幸田・出会い編・1



それは、夏の日の夜だった。




深夜まで続く残業をやっと終えた三城春海【みき・はるみ】は、帰宅のため車を走らせていた。

毎日通る、通いなれた道だ。

危険な場所や人が飛び出しやすい場所など、大体を把握している自信がある。

元々几帳面で完璧主義なため、車の運転も丁寧だ。

決して交通ルールの全てを守っている訳では無いのだが、事故や違反には無縁だった。

三城のハンドル捌きや洞察力は正に完璧で、そんなヘマはしない。

何においても自信家で、運転においてもそうだった。

だからこんな事が起こるなんて、思ってもみなかったのだ。

まさかこんなに見通しの良い十字路で、人が飛び出して来るなんて。




ドンッ!

と、頭に響く音がし、三城は急ブレーキを踏んだ。

経験はないが、これが人身事故だと本能のようなモノで悟った。

一気に血の気が引く。

事故を起した多数の人が言う言葉だが、三城も例に漏れず思っていた。

「まさか、飛び出してくるなんて思わなかった」

そりゃそうだ。

信号は青、車は三城の物だけだがライトを煌々とつけている。

制限速度は多少オーバーしていたが、無茶な速度でもなかっただろう。

信号もしっかりと有り、ニ車線同士の十字路だ。

昼間ならば車が途切れる事なく通っているのだが、住宅街の近くのため深夜の今は車も人通りも皆無だった。

三城と、その相手以外は。

まさか自殺志願者だろうか。

だとしたら余計に面倒だ。

けれどこのまま立ち去る訳にもいかない。

そんな事をすればひき逃げ犯となり、経歴に傷がつく所では済まされない。

誰も見ていなそうだからといって警察から逃げ切れると思うほど、浅はかにもバカにもなれず、三城は渋々と車から降りた。

バンッ

扉を閉める音が、深夜の淀んだ空気に震えて妙に響きわたった。

愛車の前に倒れている男を見下げる。

スーツ姿で身体をくの字に折り曲げ横たわっていた。

身体は細身、髪はたぶん黒で襟足程度。

標準的な日本のサラリーマン像そのものだ。

下半身を覆うように出血はしているが、大量と言う程ではないと思う。

けれど、打ち所が悪ければ人はそれで死ぬ。

「おい」

三城は不機嫌そうな声で男に向かって言った。

男は身じろぎもしなかったが、三城も焦りはしなかった。

流れ出る血の匂いよりも強く、この男から酒の臭いがしたからだ。

飛び出して来たのも、自殺目的というよりはただの酔っ払いだろう。

酔っ払いの不注意による過失なら、こちらの非だけを問われる事はないだろう。

そう思うと、スーツの胸ポケットから携帯を取り出して119番にかける。

「もしもし、救急車の要請を、、、」

三城は相変わらず顔いっぱいを不機嫌で染めていた。



*目次*