三城×幸田・出会い編・12



気がつくと三城は深夜の病院の廊下を早足で歩いていた。

仕事から帰ったままの格好で飛び出して来たため、ワイシャツにネクタイ姿だ。

ここまでどうやって来たのかもハッキリとは覚えていない。

車で来た事くらいは覚えているが、何処をどうしたのか記憶に薄い。

ただ幸田の元に向かわなくては、との一心だった。

何故自分がこんなにも突き動かされているのか、三城は解らないでいる。

電話越しに泣かれたからだろうか。

いや、そんな理由で疲れた身体を更に追い込む真似をするほど熱いタイプではない。

少なくとも、今まで経験上泣かれた事はあっても、駆けつけた事など一度もないのだ。

せいぜい口先で宥め梳かせるか、理由をつけて切ってしまう事もあった。

正直、泣かれるのは鬱陶しいとしか思わなかった。

それなのに。

「彼女」と呼んだ人達に対してすらそうだったのに男の幸田相手に何をしているんだ、と三城は自分を叱咤する。

男の涙なんて情け無いだけじゃないのか。

それでも、先ほど受話器から聞こえてきた嗚咽交じりの声と、最後に見た弱々しい面持ちが忘れれない。

心配をしていると言うのとも違うとは思う。

「何」と言えないモヤモヤとした気持ちが三城を苛む。

今までも幸田の幻影が三城を捕らえては離さず仕事に支障を規さすほどだったのに、今幸田を無視してしまえば更に大きな何かに絡められてしまいそうだ。

何故こうなってしまったのだろう。

理由らしい理由を見つけれないまま、三城は幸田の病室の前に立った。

何度も来た部屋だ。

そしてあの日から暫く来れなかった部屋。

この中に幸田を居るはずなのに、実感が湧かない。

時間を考えれば当然なのだろうが、電気はついていなかったからだろうか。

携帯電話を取り出し、時計を見る。

電話がかかって来てから20分と少し。

「直ぐ行く」という三城の言葉を信じるならば幸田は起きているはずだ。

『幸田恭一』とかかれた病室を示すプレートを暫く見つめていた三城は、意を決して静かに扉を開けた。



 
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