三城×幸田・出会い編・5



医者と看護士を連れ添って病室に戻った三城は、まだ帰る事を許されず幸田の怪我の説明を聞くはめになった。

三城としてはそんな事後回しにして、さっさと示談をしたかった。

こんな事なら医者を呼びに行く前に話をすれば良かったなどと言っても後の祭りにしかならない。

部屋に入ると幸田は上半身を起してベッドの上に座っていた。

先ほどまでの呆けた顔は無く、真摯な表情をしている。

横たわっていた割には跳ねていない黒く真っ直ぐな髪も相まって、いかにも真面目な印象だった。

笑顔など浮かべてはいないが、柔らかい雰囲気。

医者が主に幸田に、時折三城に話をし始める。

仕方なしに聞いた説明に、三城は聞いているというよりも聞こえているといった状態だった。

どうやら左足は骨折しているようだが、他に大きな怪我は無く命の心配は無い事は解った。

詳しい検査は明日行うらしい。

骨折の種類とか治療方法などはとても興味が無かったが、元々記憶力が良い三城は嫌でも頭に残ってしまう。

なんだかんだと三城にはどうでもいい話を散々聞かされ、時に同意を求められる。

空返事を返す三城に対し、幸田は真剣に聞いていた。

自分の事なのだから当たり前なのかもしれないが。

同じ事を繰り返し言う医者に「もういい」と怒鳴りつけたくなった頃、ようやく医者と看護士は居なくなった。

「後は若い二人で」とばかりに笑顔で居なくなるので、三城の片頬は引きつりそうになる。

「はぁ、、、」

どっと疲れた。

一応の気づかれだろうか。

時計を見るともう早朝と言っていい時間で、余計に疲れを感じた。

話し合いなどする気が起きない。

とりあえず帰りたい。

医者が出て行った扉を見るとも無く見ていた三城は、ため息と共に振り返り幸田と向き合った。

瞬間、幸田とバシッと視線が合う。

簡単には外せない気分を味わったが、当の幸田はフワリと微笑んだ。

先ほどまでも柔らかい空気だったが、更に柔和になり思わず三城は怯んでしまいそうになった。

怯むも何も戦う訳でもないし、第一話し合いの部だってこっちにある。

ニコニコと微笑む幸田を前に、気を取り直した三城はスーツの隠しから名刺ケースを取り出し、一枚を抜き取り渡した。

「明日、また来ます。責任などの話しはその時にしましょう。警察や保険会社、弁護士を立てたいならこんな時間じゃ無理ですし」

もっともらしい事を早口で並べ立てる。

実際はそんな奴らがいない方が楽なのは解りきってるが、「帰りたい」一心だった。

名刺を受け取った幸田は、じっとその名刺を眺めていた。

「うわぁ、この会社知ってますよ。凄く大きな所ですよね。年も近そうなのに部長さんって凄いですね」

暫くして明るく発せられた言葉は酷く拍子抜けするモノだった。

そんな事今は関係ないじゃないか。

それとも、金を持ってそうだと思ってふんだくるつもりか?

イライラとした三城を余所に、名刺から視線を上げた幸田はまたニコっと笑った。

「話し合い、今してしまいませんか?」

邪気の無い笑顔で言われ、反論する事も出来なかった。

思えば、この時に全てが決まってしまったのかも知れない。

そうとは知るよしも無い三城は、あれほど帰りたいと思っていたにも関わらず渋々ながらに承諾をしてしまう。

一つ頷くと、待っている間座っていたパイプ椅子に腰を下ろしたのだ。



 
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