三城×幸田・出会い編・7



事故から一ヶ月と少しが経った。

三城は自分でも驚くほど足しげく病院に通っていた。

とは言っても仕事の関係で来れない日が多く週に1〜2度程度だが、多忙な三城にしてみればそれだけでも時間を作れているのは褒められた事だった。

何故自分がこんなに幸田の為に、、、と思わなくもないのだが、時間を作り来てしまう。

訪れたからといって何をする訳でもなく、会話も少ない。

ただ頼まれた物を渡して、次の用件を聞くだけ。

10分も病室に居れば良い方だった。

そのため三城が来ている時以外の幸田の行動などほとんど知らなかった。

だが、幸田はあの通りの外見なので当然のように看護士達の話題の的になり、また三城も人目を惹くルックスゆえ何かと話しかけられ知る所となる。

内容よりも「話をする」事が目的なのは明白で、一度病院に行くだけで数人の看護士に声をかけられては世間話から幸田の話しまで聞かされるのだ。

当初は三城にとって迷惑以外の何物でもなかったが、次第に慣れた。

世間話は聞き流す程度だが、幸田の話しはそれなりの興味を惹いた。

三城が病室に訪れる時はかなりの高確率で幸田はベッドの上に居たが、看護士達の話では松葉杖を突いて軽い散歩などはしているらしい。

怪我の回復は順調で、この分だと後一ヶ月もしないうちに退院出来るとの事だ。

真面目な見た目通りだった幸田の事だ。

「安静」を律儀に守っているのだろう。

事故の日、幸田は色々な表情を見せ三城を困らせが、それもその日限りだった。

基本的に幸田は無茶な要求はしなかったし、図々しい所か謙虚ですらあった。(だからといって、「来なくていい」と言う事もなかったのだが。)

この日は仕事の途中に時間を見つけて来たので、夕方4時とわりかし早い時刻だった。

頼まれていた洗濯物を渡す。

慣れとは怖いものだ。

他人の物を洗うなんて普段の三城からは到底考えれない。

それでも幸田に「ありがとう」と微笑まれると、「しかたない」と思ってしまう。

「用件はあるか?」

ふてぶてしく三城が言う。

毎度の事だ。

機嫌が悪い訳ではなく、むしろ照れ隠しも入っていた。

笑顔で男の言い成りになるなどプライドが許さないのだ。

それは幸田も察する所で、三城の態度に一々難色をつけたりしない。

「えっと、、この本を買ってきて貰えますか?」

すでに用意されていた一枚のメモを渡された。

そこには参考書で有名な出版社と「受験」の文字が躍る。

そういえばコイツは予備校の講師だったな、と思い返した。

高校生の夏休みのど真ん中で起した事故だった。

夏休みといえば予備校の書き入れ時で、幸田の負傷は予備校側も痛手を被った。

けれどそれまでの幸田の評判は芳しいものだったのでクビは免れ、それどころか減俸も30%で留めてくれたらしく幸田はとても感謝していた。

普段は会話の少ない二人だが、この不景気に職を失うのはとても辛く、故に三城も気にしているだろうと思った幸田が話したのだ。

「俺には関係ない」と三城は言ったが、内心安堵していた。

身体が無事でも職や収入を失えば「万事無事」とは言いがたい。

「退院したら予備校に顔を出そうと思うんです。授業は無理でも出来る事はあると思うので」

メモを見つめる三城に、ベッドに座った幸田が見上げて言った。

「そうか」

三城はそっけない様子でメモをズボンのポケットに入れた。

「いつもすみません」

感謝は伝わってきても、にこやかな口調は全く悪びれていない。

毎度毎度幸田は何かと用事を用意している。

それこそ洗濯のような生活に必要なものから、買い物まで。

必要性を感じるものと感じない物が当然あったが、三城は何も言わなかった。

「そう思うなら用事を減らしてくれ」

悪態をつきながらも口角をを少し上げて三城は病室を後にした。



 
*目次*