三城×幸田・出会い編・8



次に三城が幸田の病室を訪れたのは、前回訪問より4日後の事だった。

頼まれていた参考書を片手に病院の廊下を急ぐ。

時刻は7時過ぎ。

面会時間の終わりが近づき、人気は閑散としていた。

そんな中、壁越しにも解る声が聞こえた。

もちろん何を言っているのかは解らないが、強い口調から怒鳴っている印象を受ける。

驚いた事に、その声は幸田の病室から聞こえてきた。

三城が幸田の病室に通い始めて一ヶ月と少し。

これまで見舞い客と会った事はおろか、誰かが訪れた形跡すらなかったのだ。

まさかあの真面目でいつもにこやかな幸田に限って医者や看護士と口論するとも思えない。

個室の病室の前に立った三城は入室を戸惑った。

無闇に中に入りとばっちりを食らうのも簡便してほしいし、空気を読むなら帰るのがいいだろう。

だが、中から聞こえてくる声は誰だか知らない、たぶん男だろうと思われる相手の声ばかりで、全く幸田の声が聞こえないの。

何も言えないのか言いたくないのか、解らない。

別に幸田が心配な訳ではない。

ただ少し気になるだけだ。

それにこの本は早く渡したい。

部屋の前に置くか、看護士に言付けるか、とも思ったがそうすれば次の用件を聞けない。

明日から数日は仕事が確実に忙しくなり、ここに来れないと解っている。

だからこそ今日来たのだ。

言い訳めいた事を次々に脳裏に浮べ、三城は散々迷った末入室を決めた。

自分が入る事が「空気を読まない」行動なら、好都合だろう。

そう思い、扉を横に引いた。



 
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