三城×幸田・出会い編・9



カラッ

横開きの扉を開き三城が病室に入ると、いつも通りのパジャマ姿の幸田と予想通り見知らぬ男が一人居た。

廊下の外まで響いていた声が水を打ったように止む。

男は驚いた様子で今しがたまで開いていた口を半開きのまま振り返った。

年は三城と同じくらいだろうか。

身長は180cm少しの三城よりも5cmは低いだろう。

一見してサラリーマンだろう雰囲気と、量販店の物と思われるスーツ姿でクールビスのためかノージャケット・ノーネクタイだった。

髪は薄っすらと茶色く染めてはいたが、磨り減った光沢の無い革靴やシワのあるワイシャツから身なりにあまり気を使わないタイプと知れた。

その男が三城を値踏みするように上から下まで眺めている。

三城はといえば、同じくノージャケットではあったがネクタイは締め、スーツから靴に至るまで全てがそれぞれ気に入りの海外製ブランドの物だった。

もちろんシワやくすみ等は無く、ビシッと着こなしている。

別に量販店の物をバカにするつもりもないし、ブランド品を自慢するつもりもないが、与えられた立場と給与に見合う物をこだわりを持って身に着けているだけの事だ。

値踏みを終えた男はあからさまに顔をしかめると、唸るような声と口調で三城に向かって言った。

「誰だ、お前」

けれど三城は相手にする事無く、男の脇を通りすぎると無事な足を下ろしてベッドサイドに座る幸田に歩み寄った。

「頼まれていた本だ。確認してくれ」

書店の名前がプリントされている紙の袋を幸田に渡す。

「あ、はい、」

ハッとしたように一瞬ビクッと肩を震わせて三城を見上げた幸田は、それを受け取り開き口を止めていたセロテープをピリピリと剥がして中を覗いた。

「はい、確かにコレです。」

微笑もうとしたのだろうが、それはとてもぎこちなく痛々しいものだった。

二人が何を話していたのか知らないが、幸田の様子から決して楽しい話しでは無かったのだろう。

幸田は暗い表情だし、男は逆毛を立てたように憤っている。

男の憤りは、三城に向けた質問を無視された事も原因だろう。

バカの一つ覚えのように、同じ質問を先ほどよりも大きな声で叫んだ。

「誰だって聞いてんだよ」

無視を決め込んでいる三城は答えず、幸田を見たまま煩そうに顔をしかめた。

「今日の用件は?」

「えっと、洗濯物があるんですが」

いつもの悪びれない口調ではなく、恐縮しきった様子で幸田はいつも洗濯物を置いているスペースをチラリと視線だけで見た。

「わかった。だが、暫く、、、、」

来れなくなる、と続けるより早く男は三城の肩を掴んで自分の方へと向けさせた。

「っ、、」

「お前、恭一の新しい男か!」

唾が飛びそうな勢いで怒鳴る。

当の三城は怒った様子の男に怯みもせず、冷たい視線をやった。

同じ様な言葉を言った事はないが、今と同じような状況に陥った経験は何度かある。

三城が女性関係にだらしない訳ではない。

ただ男として、据え膳を食っていただけだ。

彼氏が居るにも関わらず別の男にアプローチをかける女が全面的に悪いと思っている。

けれどこの状況に立ち会わせるのは決まって女で、言っているのはその女の元彼とか彼氏だと思い込んでいた男だ。

男の言葉を今までの経験に当てはめるならば、幸田の元彼か何かなのだろうか。

軽蔑はしないが、今まで同性愛というものに無縁だった三城は心底驚いた。

だがポーカーフェイスは得意な方で、面には出さない。

そしてそれと同時に、幸田がゲイである事に妙に納得もしてしまう。

別に幸田が女々しいタイプだとかカマ臭いなんて事ではない。

ただ、こんなに綺麗なのだから男に興味が無いノーマルな男だってその気にさせてしまうかも知れないと思った。

それに女を抱いている姿が想像できない。(男と絡み合っている姿だって容易には想像出来ないが)

「三城さんはそんなんじゃない」

蒼白な面持ちの幸田が震える声で言った。

男の言葉がショックだったのだろう。

だとすると幸田も同性愛者だと認めたようなものだ。

それに対する嫌悪を三城は全く感じず、「やはり」と思うだけだった。

「俺は関係ない。」

自分の肩を掴む男の手を片手でなぎ払い、細めた双方で見据えながら張りのある凛とした声で言う。

カッカッと踵を鳴らしながら洗濯物が入っている紙袋に近づき、それを手にするとまだ何か言いたそうな男を無視し病室を出るため扉に向かった。

このまま立ち去る事に躊躇しなかったと言えば嘘になる。

だからだろうか。

ふと、視線を感じで振り返るとなんとも言いがたい表情で幸田が三城を見ていた。

「またな」

大丈夫だとばかりに三城はしっかりと幸田を見返して言うと病室を後にする。

面会時間終了を知らせる看護士の声が何処其処から聞こえてきた。



 
*目次*