画面の向こうの・・・編・01



C&G日本支社の支社長室。

日常的に人の出入りが頻繁だともいえないそこに、今は雑多に人が居た。

「・・・何故俺も呼ばれているんだ」

「次に副支社長だと」

「分かっている」

傍らの北原を睨みつけ、三城は鬱陶しげに手を振った。

分かり切った自問自答だった事も、北原への対応が八つ当たりでしかない事も自覚をしている。

それでも溢れてしまう呟きは、苛立ちが姿を変えたものだ。

支社長室に到底家庭用ではない撮影カメラが二台。

それに伴うジーンズ姿の男が十名弱と、ラフなスタイルの女が二名と、小綺麗なミニスカートの女も二名。

それから、三城と北原、この部屋の主であるクラインとその秘書・水橋[みずばし]。

ふと視線のかち合った水橋は、三城の不機嫌さから何かを察したのか苦笑を浮かべてみせた。

水橋はクラインが日本支社長に着任して間もなく、社内の秘書検定1級所有者の中から選んだ二十代半ばの男だ。

最終選考はクラインが行った為不正は一切していないが、元は花形部署として名高い海外営業部、つまるところ三城の部下でもあった。

それ故に水橋の有能さは三城自身知っている。

クラインが元部下を本社から連れて来るという話しもあったにはあったが、支社長とその秘書が日本人でないというのはいくら外資系企業でもC&G日本支社では初めての事でやりにくいだろう実現しなかった。

暗に北原が欲しいとほのめかされもしたが、三城が北原を手放す気がない為素知らぬふりをしている。

「あいつだけでも良かったんじゃないのか」

小声の独り言に今度は北原からの返答もない。

海外営業部時代よりも少し短くした髪を清潔に整えた水橋は、人好きのする一般的に容姿が整っている部類だ。

苦笑を浮かべていても嫌味ではない。

仕事の能力と同等に人間性を重視して人選したというだけあり、クラインの隣に立つ水橋はいつも柔和で笑みを浮かべている。

一方彼から顔を背けることで逃げた三城は、愛想の欠片もないしかめ面だ。

そしてその隣の北原もまた、冷たくさえ感じさせるポーカーフェイスである。

その理由は考えるまでもない。

「こんな事をするくらいなら、机に向かってた方が有意義だ」

「・・・ごもっともです」

「お前がレイズを止めれば良かったんだ」

「申し訳ございません。ですが生憎私は事後報告で・・・」

「分かっている。その場に俺も居たんだからな」

冗談も嫌味も通じず真面目に返す北原に更にため息が起こる。

だがそんな姿など周辺の人間に知られたくなくて、殊更不機嫌に唇を結んだ。

「はい、カット。じゃぁ次・・・次は、三城さんお願いします」

「・・・」

「三城さんも身長高いですね。日本人だっていうのに全く見劣りしない」

ジーンズにTシャツ姿の男の一人が、やけに明るく言いながら三城を振り返った。

その背中には、有名民放テレビ局のロゴと、バラエティー番組のロゴ。

他の男らも皆同じ装いだ。

大きな黒いカメラのレンズが二台と、頭上からおろされている灰色のマイクが三城を向く。

その向こう側では、クラインがほっそりと笑みを浮かべていた。

元凶は全てクラインだ。

これでも一応は三城もサラリーマンで、上司の命令は絶対。

実際はあまり絶対だとも言いきれず好きに動いているが、しかし抗えない場面があるという程度は三城でも考えている。

ゴールデンタイムのバラエティー番組。

そのワンコーナーの一環で今、クラインは取材を受けていた。

そして何故か、三城や北原も巻き込まれて現在に至っている。

「良いですね、お二人並ばれると絵になる」

「ねぇ。かっこいいですね。本当に支社長さんと副支社長さんなんてびっくりです」

「だよね。俳優さんとかかと思った。てか、今もドッキリじゃないかとか思っちゃってる」

クラインの横にはインタビュアーを勤める女性タレントが二人。

夏も本番の八月下旬とあり、彼女らは揃いも揃ってキャミソールの肩や胸は此処に居る誰よりも露出をしている。

北原のいつにない無表情の要因はそこにありそうだ。

「じゃぁ、クラインさんが三城さんを紹介する感じで───」

撮影カメラが録画を知らせるランプが点灯する。

あまり賢そうに思えない話し方をする女性タレント二人が大げさな表情を浮かべる。

シナリオ通りに進む撮影は茶番劇だと、三城は胸で大きく息を吸うとレンズを向けられても尚、さも不機嫌そうに眉間に皺を寄せたのだった。



*目次*