画面の向こうの・・・編・02



一時間番組のワンコーナー、たった数分の為に何時間を掛けるのだと何度も苦言が上がりそうになりながら、それでも嫌な顔一つ浮かべない上司・クラインの手前三城は押し黙っていた。

テレビ番組の制作とはそういうものだという認識があるにはあったが、それにしても効率が悪すぎる。

大部分がカットとなるだろうに、何故相手に選ばせる余地を有り余るほど与えてこちらが動かなくてはならないのかと、自らが望んでいる事ではないだけに不満が募ってゆく。

今日は社屋への取材だけであるが、後日クラインの自宅も撮影するという。

そんなものに一々付き合うクラインにも辟易としたものを感じた。

「副支社長、お疲れ様です」

「・・・あぁ」

北原に差し出されたプラスティック製のホルダーにはまった紙コップを受け取る。

今回のメインで出ずっぱりのクラインとは違い、おまけ程度の三城は待ち時間の方が多い。

ならばすぐ隣の自室へ戻りたいと節に願うのだがそれも許されず、今出来る事といえばコーヒーブレイクでもして気を休める事くらいだ。

頼むと同時に勧めた自身のコーヒーを手に、北原が三城の隣へと立った。

「後どれぐらい掛かる?」

「この後、社員食堂へ移動し社食の紹介をして終了です」

「・・・そんな物に俺も必要なのか?」

「はい。デレクターが副支社長も是非と」

「レイズだけで良いだろ・・・女好みのするベタなアメリカ人だ」

カメラの向こうで微笑むクラインを横目に、吐き捨てるように口から洩れる。

この取材の番組コーナーのタイトルは「イケメンセレブに会いたい」。

なんとも安直で品性のないタイトルだというのが三城の率直な感想だ。

しかしその番組趣向にクラインはピッタリ当てはまり、彼に取材依頼が来たのは妥当だとしか思えない。

なにせ、世界中に支社を持つC&G社の嫡男で、日本支社のトップ。

財産は平均的なサラリーマンが一生をかけて稼ぐ金額の十数倍はある。

容姿にしても、金髪碧眼というだけで目を惹くだろうに、長身も弛んでない身体も、バランスよく配置されている目鼻立ちも、どれにつけても醜悪さがない。

そのうえ、誰が要因しているのか以前よりも人当たりが良くなったとあり、テレビ的にも扱い易いのだろう。

それは良い。

レイズがテレビに出ようが雑誌に出ようが三城の知ったところではないのだが、しかし現状巻き込まれているので釈然としないのだ。

三城にしても、以前より類似のオファーはあった。

自分が特別だとは思わない。

ただ、テレビ局ひしめく東京都内にある企業で、ある程度の年齢である程度の話題を提供出来る人物など限られているだけだ。

この手の番組も取材も年間に呆れる程取り上げられているが、一度も受けた事がなかったのは単に面倒だからに他ならない。

だというのに今、その面倒のさ中に居る、というのが苛立ちを募らせていた。

「で、これが終わった後の俺の予定は?」

「数点の検案書のご確認と、アーチェル社の件で本社へ連絡です」

「それだけか?」

加えて北原は、現状の三城の不機嫌さを予測していたのかもしれない。

感情で仕事をする気はないく、機嫌が良くても悪くても仕事の結果は変わらないつもりだ。

しかし、三城自身は良くともその不機嫌さを怖がる人間が部内に多い事も事実である。

本社への連絡は重要だが短く済み、検案書などに目を通す物も今日は然程多くなかった。

北原はわざわざ言わなかったがいくつかメールや手紙の返信もあるものの、どれも少量だ。

もっともそれは、三城の中の基準での話である。

「なら、今日は早く帰れるな」

この面白くない場を乗り切るには、この後に楽しみを用意するのが短絡的ながら手っ取り早い。

そして三城が「楽しみ」としてまず思い浮かぶのは、恭一だ。

恭一と食事に出かけたい。

この時間に連絡をとれば、夏休みで授業のない恭一は時間が作れるだろう。

名案にたどりついたように気分が落ち着く。

だが丁度そう考え始めた時、静かにコーヒーを飲んでいた北原がふと顔を上げた。

「いえ、本日はこの後打ち上げだと」

「は?レイズだけが行けば良いだろ」

「それが先ほど、デレクターが副支社長の参加を支社長に打診し、承諾されたのでレストランに予約を取ったと・・・」

「なんだと」

反射的に北原を睨みつけると、彼は一瞬肩を震わせたものの大きな変化は見せなかった。

北原に苛立っても仕方がないと、きちんと分かってはいるが想定外の事態に聞き流せない。

「俺は聞いていない」

「撮影終了後に伝えると支社長がデレクターに話していました。私も耳に挟んだだけで、申し訳ありません」

「いや。・・・耳に、な」

「・・・」

北原は周囲に注意を払えど聞き耳を立てるような男ではない。

それだけに、今はあの撮影陣───というよりもクラインの周辺が気になるのだろう。

今が落ち着かないのは三城だけではないようだ。

「・・・分かった。行けば良いんだろ。これも仕事だ」

進まなかったコーヒーを煽る。

少し冷めかけたそれが喉を潤してゆく。

仕事にならない一日に苛立ちながらも、結局は諦めるべきだと、三城は遅くなる旨を恭一へメールを送信したのだった。



  
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