画面の向こうの・・・編・03



待ち合わせの時間厳守で仕事を切り上げろと言われたのも支社長命令だ。

何故そこまでして行きたくもない打ち上げに出向かわなくてはならないのか煮え切らなかったが、行き先を聞かされ更に辟易とした。

広いフロアの片隅の六人掛けテーブルの上に今は魚料理が並んでいる。

グラスに注がれた赤い液体を揺らし、ディレクター・田町[たまち]は上機嫌だ。

「ここのレストランはなかなか予約が取れないって有名でしょう。私も二度目なんですがね」

「私は雑誌で見た事しかなかったんだ」

「田町さんありがとー」

三城とクラインが並び、向かいには田町と取材のインタビュアーを務めたタレントの綾と美咲が並ぶ。

さも楽しげな雰囲気を醸し出している三者の一方、三城の機嫌は相変わらずだ。

一般的にこの手の取材で一々打ち上げをするものなのかは不明だが、しかしもしもそうならばテレビ番組の制作とは毎日が打ち上げになりそうだ。

北原から聞かされた後クラインより正式に事後承諾を促され、そうして嫌々ながら参加を受け入れたが、この打ち上げに北原の姿はなかった。

水橋の姿も、カメラや照明を支えていた男らの姿もなく、居るのはテーブルを囲む五人だけだ。

「でもお二人なら、このレストランにも来られた事はありますよね。きっと色んなレストランをご存じなんでしょう」

「そうだな、此処の予約が取れないとは知らなかったので、頻繁に利用させてもらっている」

視界の端にこちらを伺っているボーイの姿を知ると、あえて無視をして三城は吐き捨てた。

頻繁に利用しているのはこのテーブルが並ぶフロアではなく奥にある個室で、それも三城が此処を気に入っているからではなく便利だからというだけだ。

会話を聞かれない、姿を見られない。

そうなってようやく、当たり前のカップルのように甘い時間が過ごせる。

三城はどこであれ何も気にしないが、生憎恭一はそう思いきれないようだ。

「凄いですね、レストランにまで繋がりがあるとは・・・」

芸能界は未知で一般常識とは異なる世界だろうが、それに比べるならば三城の人生はなんともシンプルだ。

ふと今晩テーブルを囲みたいと願っていたその顔を思い出し、不機嫌を誤魔化すように赤ワインが注がれたグラスを持ち上げた。

「繋がりと言えばそうだが会社絡みではなく、今は関係が───」

「このprosperityグループの社長は、ハルミのお兄さまなんですよ。私もよく利用させて頂いています」

「えぇー!prosperityグループの?社長の弟さんなんですか!?」

「凄い、ご兄弟ですね。え、じゃぁもしかしてご両親も社長とか・・・」

「ハルミのご両親それに上のお兄さまは弁護士で、お父上はその弁護士事務所の所長だと。社長といえばそうですね」

「レイズ、余計な事を言わなくて言い」

「余計な事?立派なご職業におつきのご両親方だ、胸を張らなくてはならない」

学生の頃はアメリカに留学し、現在でも頻繁に渡米している。

外資系企業に勤め取引相手も外国人が多く、年功上列や性差など日本に未だ根強く残る習慣を古くさいと三城自身も一蹴している。

けれど、それでも自分は根っからの日本人だと思う時があり、今がまさにそうだ。

クラインには謙遜と言う概念がない。

その彼に今此処で必要以上に諭すのは面倒以外の何事でもなく、三城は顔を背ける事で無かった事にした。

どちらにせよ、日常的に関わりが深い訳ではない家族の事などどうでも良い。

「お二人とも、ご本人だけじゃなくてご家族も凄いんですね」

「ほんと、生きてる世界が違うって感じ」

「良いじゃないの、良いじゃないの。彩ちゃんも美咲ちゃんも可愛いんだし。ね」

きゃっきゃとはしゃぐ女性二人に田町が猫なで声で同調するが、しかし三城の目にはどちらも可愛いとは思えない。

年齢はようやく二十歳を過ぎた頃だろうか。

世間も知らない子供にしか思えず、容姿以前に人間として興味が持てない。

あえてその容姿を見たところで、どちらも同じようなメイクと髪型をしているので、見分けがつかないとは言わないが個性のないその他大勢の一人だ。

特別な何かも感じなくて、若者ひしめく街に放り込めば途端に通行人に紛れてしまうだろう程度にしか感じられない。

三城にしてみれば、そのような子供にこのレストラン自体が分不相応だ。

そうしていると、肉料理が運ばれた。

ボーイが丁寧に説明するそれは、三種の肉料理が美しく盛り付けられ食欲もそそられる。

だがそれだけに、今此処で向かい合っているのが望んだ相手でないと落胆をも連れてきた。

「わぁ、綺麗」

「食べるのもったいない」

もしも此処にいるのが恭一ならば、もっと別の事を言っただろう。

もしくは、三城がもっと別の捉え方を出来ただろう。

だが目の前の女性二人の賛美など、今は何を聞いても嫌な気分にしかならない。

隣のクラインは至ってフレンドリーで、それもまた国民性と言われるとそれまでであるが、いっそ一人の部下が可哀想にすらなった。

フォークを進めながらふと顔を上げる。

するとその先に、見覚えのある姿がこちらへ小走りに向かっているのが見え、殊更辟易としたのだった。

  
*目次*