画面の向こうの・・・編・04



なんて事はない。

このレストランのマネージャーが、三城の存在を知って挨拶に来ただけだ。

別に重鎮というわけでもないでわざわざ来なくても良いとしか思えないが、偉そうな立場でないと考えるが故に無碍にも出来なかった。

ため息混じりの型にはまった挨拶を、食事中だからと追い払う。

オーナーで実兄・秋人がこの場に居なかったのだけが幸いと思うしかない。

「食事中に個人的な用件で申し訳ありません」

「いえいえとんでもない。いやぁ、さすがですね」

本心など感じさせない口振りの田町はさも感心して見せる。

何がさすがなものか。

挨拶を来たのは秋人の弟であるからであり、三城が三城であるからではない。

的外れな褒め言葉など何も嬉しくないが、そんな事など気づきもしないのだろう。

そもそもこれがクラインの取材に対する打ち上げならば、主賓はクラインでありよいしょをするなら彼をするべきだ。

この場に呼ばれただけならばいざ知らず、無駄に誉める辺りにも何かしらの意図があるとしか思えなかった。

大して会話が弾まないまま、料理は肉料理へと進む。

上質の肉を煮込んだそれは三城も何度か口にしているので絶品だと知っている。

もっとも、いくら旨くても値段に見合ったそれならばその程度だとしか思えない三城の一方で、向かい合っていた恭一はさも嬉しげにしていたとふと思い出した。

「わぁ、すごく柔らかい美味しい」

「ほんと。前にテレビでやってたまんまだぁ」

多分、彼女らの言っている内容もボキャブラリーも、恭一と変わらない。

だというのにこうも、苛立つような否定的な気分にしかならないのは何故だろうか。

愛想の一つも向ける理由すら思いつかないまま、三城は黙々とフォークを進める。

三城程ではないにしても、クラインも自ら会話を作ろうとしないので似たようなものだ。

田町がわざとらしく会話を振るものの、けれどそれらはどれも大した花を咲かせなかった。

「お二人は映画を見られますか?今度美咲ちゃんも綾ちゃんも映画に出演しましてね」

「映画館へは、日本に来てから足を運んでいないですね。以前たまたま、テレビで放送をされていたのを見たくらいです」

「そうなんですか。その時は何を?」

「たしか、古い洋画ですね」

「三城さんは?」

「見るが、邦画は見ない」

にべもないが事実なのだから仕方がない。

ここで目の前の二人が出演するという映画に興味を持てば良いのだろうという判断は出来るものの、実際は微塵も興味もなく、興味を持って見せる理由もなく、本心を露わにしただけだ。

メインディッシュの最後の一口を口にする。

撮影中から不機嫌で、愛想が悪かった三城を打ち上げに誘おうと考えた田町が悪い。

そして、三城に無断で承諾をしたクラインにも十分な非がある。

巻き込まれたタレント二人が不運なだけだ、と顔をあげたが、偶然のかち合った美咲がニコリと笑ったので考えは改めた。

彼女にしても、不運などとは思っていないようだ。

それを裏付けるように、フォークとナイフを握ったまま彼女は僅かに身を乗り出した。

「三城さんって、おいくつですか?」

「二十九ですが」

「へぇ。お若いのに凄いですね。やっぱり、やっぱり、おモテになりますよね?」

「あまり時間も出会いもありませんから」

「そうなんですね」

答えになっていない答えを返し、ワイングラスを持ち上げる。

謙遜をしても通じないと思ったが、婉曲に言っても同じだったようだ。

三城の左の薬指には指輪が光る。

恭一はなかなか信じてくれなかったが、この指輪は正真正銘風呂以外で外していない。

今も当然のように光るそれは、美咲には見えていないのかもしれない。

ワイングラスに唇を添える。

隣ではクラインと田町と綾が珍しく会話を続けていた。

「芸能人と付き合った事、ありますか?」

「生憎」

「そうなんですね。私もなんですよ」

「そうですか」

芸能人に興味がなければ、美咲自身にも興味はない。

それをストレートに伝えるのは簡単だ。

しかし二人きりではなく、一応は会社の関係で此処に居る以上、あまり大層な事もいえない。

興味のない、別段可愛いとも綺麗とも思えない面もちで、美咲は目をしばたかせた。

付け睫が乗せられた瞼が気味が悪いと、リップグロスが塗りたくられた唇が気色悪いと、よくあのような塗料塗れの物に顔を近づけていられたなと過去を振り返るようになったのはいつ頃からだろうか。

化粧をしていてこれなのだ、素顔になれば見れた物ではなくなりそうだ。

「明日は、お休みですよね?」

「今朝の予定では」

「そうですか。あ、ちょっとお手洗い行ってきます」

「あ、私も」

小さなバッグを手に美咲が立ち上がる。

それを追うように綾も立ち上がると、二人は目配せをしあい席を離れていった。

「女性はどこに行くのも連れ添いたがりますねぇ。アメリカでもですか?」

「そうですね」

楽天的に笑う田町は考えもしないのだろうが、クラインは本当に知らないのだろう。

三城としても理解が出来るか否かは別問題として、ただ知識として知っていた。

今女性手洗い場で何が行われているのか想像すると、三城もまたクラインと連れ添いたくなったのだった。



  
*目次*