画面の向こうの・・・編・06



最初から最後まで何一つ実になる物もないまま、フルコース料理の全てを終え揃ってレストランを出ていた。

入り口に面した賑やかな歩道と車道。

ネオンの煌めく街は、週末の金曜日とありより人出は多い。

「ごちそうさまでしたぁ」

「ごちそうさまです、美味しかった」

猫なで声の女性二人を見もせず、三城は固まって立つ集まりから一歩離れて横を向いた。

早く帰りたい気持ちしかなく、今という時間も無駄でしかないのだがクラインとの取引───と言うよりも脅しに近い約束がある為無碍にも出来ない。

「またお願いしますね。お二人ともテレビ栄えする」

どこまでが本心か、三城にはどこにも本心など無いようにしか思えない口振りで言う田町の言葉など、耳に入れるのも面倒だ。

雑談を早く切り上げたい、その一心であった三城は本格的にクラインらに背を向けた。

だがその時、突然腕に違和感を感じ、あまりに突然で反応が出来ないでいる内にソレは三城の腕を強引に引いた。

「三城さん、明日お休みなんですよね」

「腕を、離して頂けませんか?」

「じゃぁこれから、もう一軒行きましょう。だったら離します」

肩よりも低い場所から見上げた美咲が、笑って見せる。

それが世間一般的にどのように見えるのかは知れないが、少なくとも三城には少しも好意的には受け止められなかった。

タレントなどと大層な肩書きを持っているのだからさぞ持てはやされており、大抵の事は上手くいってきたのだろう。

笑えば許されるとでも思っているような、今自分がどのような顔をしているのか分かっているとばかりの笑みがどうにも癪に触る。

「困ります」

「でも、離しません」

「迷惑だと、言っているんだ」

低く唸るよう声を響かせた三城は、美咲が驚いた表情を浮かべた一瞬を逃さず腕を振り払った。

クラインの顔を立て婉曲な言葉を選んでいたが、伝わらないのならば仕方がない。

睨むように瞳を眇め、美咲が捕まれていた腕をわざとらしく埃を払うよう叩いた。

「レイズ、俺は帰るぞ。約束だからな」

「あ、待って・・・」

「あぁ、そうだね」

「北原に言っておけ、週明けだってな。仕事だろ」

「分かっているよ。ハルミ、良い週末を」

まだ田町と何かを話していたクラインに背を向け、もう美咲など見もしないまま車道へと足を向けた。

生憎愛車は会社の駐車場に置いてきた上に、飲酒をしてしまったので乗って帰るわけにもいかない。

運良く直ぐに見つけた空車のタクシーを片手で止めると、三城はさっさとそこへ乗り込んだ。

「六本木の───」

「はい」

口数の少ない運転手が、タクシーの後部座席を閉めるなり発車させる。

見知らぬ相手との会話は好まない質なのでそれに安堵しつつ、三城は携帯電話を取り出した。

今日は散々な一日だった。

取材は事前に知らされていたので渋々ながら了承したのは三城自身だが、その後の食事など事故のようなものだ。

今頃恭一は何をしているのだろうか。

夕食は要らないという旨をメールで連絡したそお返信は、了解するという短いものであった。

誰と何処に行くとは言っていない。

そのような事は三城の中で重要ではなく、伝える価値すら感じられなかった。

プライベート用の携帯電話のリダイヤル画面を表示する。

殆ど同じ名前が並ぶその一番上をタッチし、三城は携帯電話を耳に当てた。

「・・・、・・・」

しかし呼び出しコールを何度繰り返しても、発信相手の恭一からは何の反応もない。

普段から、特に帰宅後だろう時間帯では着信に出る速度や確率が悪くなる。

大方携帯電話を手元から離しているようで、それでは何の為の連絡ツールなのかと言いたくなる。

呼び出し音が留守番電話サービスへの転送案内に切り替わるのを聞き、三城は伝言を告げる事なく通信を遮断した。

固定電話があるにはあるが、日常的に使用していない為そこまでする気力もない。

「・・・起きていたら、それで良い」

時刻は十時前。

恭一が寝るには早いが、絶対とは言い切れない。

身体よりも精神的な疲労を感じ瞼を閉ざす。

そうしていると程なくして、マンションのエントランス前でタクシーは静かに停車した。

「つきました」

「あぁ・・・釣りは良い」

「どうも」

紙幣を三枚、運転席と助手席の間に置く。

さっさと財布をポケットに戻し、三城はタクシーを降りた。

此処から入るのは久し振りだ。

オートロックキーを解除し、エレベーターホールへ向かう。

郵便受けの前を通りかかった時に何気なく中を覗いたが、そこが空になっている事で恭一の帰宅を確かめた。

早く帰った方が郵便物を取って帰るというのは、同居を始めた時からの二人のルールだ。

元から帰宅をしているだろうと予測はしていたというのに、空の郵便受けを見ただけで急に気が逸る。

心身の疲れを忘れてしまったようだ。

一階で止まっていたエレベーターに乗り込み、自宅の回数ボタンを押す。

遅くはないエレベーターの上る速度さえも、今はどうにももどかしかった。




  
*目次*