画面の向こうの・・・編・07



鍵の掛かっていない玄関から室内へ入ると、そこにも奥の部屋にも明かりがついていた。

「起きてるな・・・」

革靴を脱ぎ、隅へ追いやる。

その隣の恭一の靴は、丁寧に揃えられ爪先が扉へと向いている。

そうしている内に、メインルームではなく反対側のバスルームから物音が聞こえた。

「あ、春海さん。お帰りなさい。早かったんだね」

「恭一・・・風呂上がりか?」

「うん、春海さんもっと遅くなると思って」

薄い水色のパジャマ姿で首にタオルをかけた恭一が、パウダールームから顔を覗かせた。

湿った髪が頬に張り付きその頬も赤く色ついており、小さっぱりと気が抜けた様子で片手で髪を拭う姿はなんとも無防備だ。

「それで電話に出なかったんだな」

「え?電話くれてたんだ。ごめん、多分そう。何か用だった?」

「いや、ただ帰るという連絡なだけだったんだが、むしろ丁度良い」

「丁度良いって何が?・・・あ」

ふと口元を緩めるなり、三城は手の中のビジネスバッグを廊下に置いた。

ノートパソコンとタブレットパソコンが入っているそれはそれなりの重量で、手から離れると身体が軽くなる錯覚になる。

自由になった手をすかさず恭一へ延ばすと、遠慮なくその腰を抱き寄せた。

苛立ちや不満や、不機嫌の要因となっていたものが薄らいでゆく。

けれどそれは決して消える訳ではなくて、浄化されていくイメージだ。

恭一に触れ、恭一を感じる。

過剰に豪奢なレストランで食事を摂るよりも、自宅の玄関で恭一の腰を抱く方が比べ物にならない尊い時間だ。

「春海さ・・・」

「寝室に行くか」

「え、いきなり?」

「何だ?たまには違う場所をお望みか?」

「ち、違うけど、そうじゃなくて」

三城の胸に恭一が腕をつくが、ただ触れるだけのそれは抵抗とも呼べない弱々しいものだ。

恭一が本気で嫌がるならばそこは譲歩をする。

しかしくだらない理由で戸惑っているだけならば、三城が手を緩める理由にはならない。

「だったら良いだろ。それとも、何か不都合でもあるのか?」

「それも、ないけど・・・ぁ」

腰を抱いた腕に力を込め十センチ低い眼差しを眺め腰を折ると、三城は互いの唇を合わせた。

一瞬触れあっただけの口づけ。

音を立てる事もなく食む事もなくすぐに離れたけれど、恭一の中の何かを動かすには十分だったようだ。

「行くぞ」

胸に触れていた指先が離れる。

代わりに、薄いパジャマに包まれた腕がそこに寄り添った。

「春海さん、酔ってる」

「アルコールは飲んだが酔う程ではないし問題はない」

「そうじゃなくて・・・」

「明日は恭一も休みだろ?昼まで寝ていろ」

「昼までは、寝てられないけど・・・春海さん」

恭一の手が、自由だった三城の手に重ねられた。

そうしてはにかむ面もちは、三城の中心に直接的な刺激を与えていく。

「久しぶり、だね」

「・・・だから?手加減はいらないという事か?」

「え?・・・え、そうじゃなくて、春海さん?」

「なら、さっさと行くぞ」

「は、春海さん」

腰を離した三城は、つなぎ合わせた手を引いて寝室に早足に足を向けた。

仕切り扉を潜りメインルームを通り寝室の扉を乱雑に開け、壁にはめ込まれているスイッチでルームライトを灯すと、三城は手を離すと同時に恭一の肩を押した。

「・・・あ」

乱暴に扱いたい訳ではない。

むしろ何よりも大切で丁寧にその身を解きたいのだが、外観よりも内面の焦燥は際立つようだ。

反動でベッドサイドに腰掛けた恭一を見下ろす。

呆けた表情を浮かべる恭一からは身構えるものを感じさせず、三城の中のつまらない部分を満足させた。

「脱いでろ」

「全部?」

「着たまましたいならそれでも良いが」

「・・・別に、そういう訳じゃないけど。何か今日の春海さん、いっつも以上に意地悪な言い方な気がする・・・」

「アルコールのせいという事にしておけ」

「お酒を言い訳にするの嫌いなくせに」

「よく知ってるな」

「そりゃ・・・」

恭一の一言一言に満たされてゆく。

ゆっくりとパジャマのシャツのボタンを上から一つずつ外してゆく恭一の一方、三城は早急な手つきでジャケットやネクタイを外していった。

壁にかけられたハンガーラックにそれらをかける。

袖のカフスボタンをスラックスのポケットに滑り込ませ、クリーニング行のシャツを足下に脱ぎ捨てた。

「あ・・・」

「何だ?」

「ううん」

恭一がシャツを丁寧に脱ぎ、ウエストゴムのズボンに手を掛け立ち上がる。

その頃には三城はもう、ベルトを外しスラックスのフロントをくつろげていた。

それを足先から払うと靴下も脱ぎ、スラックスは簡単に畳んでハンガーラックの下に落とす。

そうして下着一枚になると、同じくようやくズボンを脱いだばかりの恭一の二の腕を掴んだ。

「早くしろ」

「あ、ごめん。でも、あの」

「言いたい事なら後で聞く。楽な体制が良いだろ」

「・・・ぁ」

ベッドの頭上まで引き上げ恭一を枕の位置で寝かせると、三城は間を置かずに恭一へと覆い被さった。

片膝で恭一の膝を割る。

その足を進めると、彼の中心に太ももを押し付けた。

「確かに、久しぶりだな」

「え?何?」

「さっき恭一が言ったんだ」

ルームライトを消すという考えはない。

消してしまうと、何も見えなくなる。

手のひらで恭一の頬を撫でその感触を楽しむと、改めるよう唇に食らいついた。

「ン・・・」

「口・・・開けろ」

「フッ・・・ぁ」

胸も、腹も、太股も、体勢を落として密着をする。

裸体に近い身体が触れ合うと、ただそれだけで熱が身体の中心へ集まっていく。

重ね合った唇から舌先を差し込み、恭一の舌を絡みとり擦り合わせるとゾクゾクと甘い痺れを知る。

それは三城だけではなかったようだ。

広げた足の間に滑り込ませた膝に当たる恭一の、まだ下着に包まれているペニスが既に姿を変え始めていた。



  
*目次*