画面の向こうの・・・編・16



飛び込みでも個室を押さえられた中華レストランで、赤いテーブルクロスの掛かる四角いテーブルに向かい合い座った。

内装も中華風を思わせる幾何学模様が至る所に施されている。

9種盛りの前菜から始まったコース料理の二品目、ショウロンポウを運んだ緑色のチャイナ服姿のウエイトレスが一礼をして部屋を出るのを待ち、三城は言い掛けていた言葉を続けた。

「それで、アポもなく会社に押し掛けたんだ」

「わぁ、それは凄いね」

「あぁ凄いな。真面な常識ある人間なら、明らかに仕事中だろう日中にプライベートな用件で人を呼び出す訳がない」

「あ、でも、ドラマとかじゃ結構あるかも・・・」

「ドラマと現実を一緒にしている時点で人間性を疑う。まぁ、それが恭一だったら気にもならないだろうがな」

「ぼっ、僕はそんな事、しないよ」

「知ってる」

いつでも社屋へ、それどころか三城の執務室へ来れるようにと通行証を渡したのは一ヶ月前の恭一の誕生日の事。

しかし未だ一度も来る事はなかったし、その気配一つ伺わせない。

この分では後何ヶ月経ったところで恭一自ら行動には出ないだろうし、このような事がおこってからはより一層萎縮しそうだ。

箸で割ったショウロンポウを口に運ぶ。

肉汁は熱かったが、それも醍醐味の一つだ。

「それで、えっと、何って言いに来たの?もしかして・・・デートの、お誘いとか?」

「知らん。そのような話しを聞く前に迷惑だと言った」

「え・・・そうなの?」

「何故俺が無駄な時間を使ってまで相手の用件を聞かなければならない。モラルのない人間は嫌いだ。関わりたくない」

言い訳や弁明も好みではないので、特別恭一に話すつもりはなかった。

けれどチラチラと物言いたげな恭一を見ていられなくて、ため息混じりに話し始めてみれば、促されるまま話し進めていた。

何もやましい事はない。

少々愚痴っぽくなる自身が気に入らないだけで、恭一に隠さなければならない出来事は一切ない。

自信がより不平を強くするのだろう。

ロックの紹興酒を口にしても、冷静さを装う中の熱は収まらない。

「そう、なんだ・・・それで?」

「そうしたら喚きはじめたから、録音した会話をバラ撒くぞと言った」

「え、会話?」

「あぁ。今は携帯でも高性能に録音が出来るだろ。脅しのつもりで言っていたが、実際きちんと録音されていた。あぁ、なんだったら恭一も聞くか?一部始終あるぞ」

「・・・、あ、えっと・・・今は、食事中だから・・・」

「そうか。気が向けばいつでも言え。当分消すつもりもないからな」

ついでに言えば、パソコンにも移し済みであるし、いらだち任せにノイズ除去もしたのでよりクリアに楽しめる。

けれどそれも、本気でメディアに突き出すつもりはなかった。

「でも、あれ?あのブログって・・・」

「『ある事ない事書くなら』ばら撒くと言ったが、生憎当たり障りのない事実しか書かれていないのだから、問題がないと言えばない」

「あ・・・そっか。春海さんの会社の人たちは、元から知ってるもんね」

「そうだな。だが・・・メディアに注目されたのは面倒だな。その辺りは既にクラインと、兄さん達に手を回して貰っているが・・・」

「え?お義兄さん達って?」

「冬樹兄さんは法から、秋人兄さんはメディア各方面にも顔が利くからな。恭一に迷惑は掛けない。安心しろ」

「え?・・・あ。そんな事、考えてくれてたんだ」

「当たり前だ。俺はどうとでもなるが、恭一はそうはいかないだろ」

録音させた会話をメディアに流す気がなかったのも、今も流す気になれずにいるのも、あまりその方面と関わりたくないからだ。

三城自身は良い。

だが美咲の相手として三城がメディア関係者に探られてしまうと、どうしたところで芋蔓式に恭一へたどり着いてしまう。

いつでも同姓の恋人が居るとカミングアウトして良い心づもりのある三城とは違い、恭一にはまだその覚悟はなさそうで、このようなつまらない事で害を及ばせたくなかった。

実力主義の外資系企業、それも日本で唯一の上司である社長の息子のクラインも同類である三城と、未だ聖職者の理想を押しつけられているとしか思えない教職の恭一とでは立場が違い過ぎる。

「そう、だよね。男子校の教師が男の人と同棲してるって知れたら親御さん心配されるよね・・・兄弟じゃ、無理あるかな?」

「・・・俺との仲を、兄弟だと言い続けられるのか?真顔で?恭一が?」

「それは、えっと・・・」

「3LDKでそれぞれも部屋もあるのに一緒に寝ている兄弟とは、余程兄弟愛が深いのだな」

「・・・ごめんなさい」

嫌味半分、本音半分。

わざとらしくじっとりと睨みつける三城に、恭一は乾いた笑みを浮かべながら急須から湯飲みに茶を注いだ。

嘘が得意だとは到底いえない恭一だ。

戸籍上はともかく事実関係はそうではない三城を「兄弟」などと言ったところで、言った傍から目が泳ぐだろうし、なにより自分自身の言葉に心苦しくなるのは目に見えている。

「それで春海さんは───」

「失礼します。お料理お持ちしました」

軽いノック音をさせ、チャイナ服姿の女性が銀色のカートを押して部屋へと入った。



  
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