画面の向こうの・・・編・18



デザートのココナッツミルクとコーヒーが運ばれる頃になると、三城は此処暫く無かった程に上機嫌になっていた。

「恭一、俺の分も食え」

「これ、そんなに甘くないって言ってたよ?」

「だったら尚の事構わないだろ。俺は酒を飲んでるんだ」

ウエイトレスが双方の前に置いていった皿を、三城は指先で恭一の前まで押す。

恭一も甘い物が特別好きだという訳ではなさそうだが、三城はどちらかと言えば嫌いだ。

食べて食べられない事もないが、旨いとは思わないし食べなくて済むならそうしたい。

そのため、二人で食事に出かけると大抵このやりとりが繰り返されている。

コース料理にデザートは付き物だが、それらは大抵小降りだというのも、二人前が恭一の元へ追いやられる一因だろう。

「今は・・・まだ九時か」

「今日は来たのも普段に比べたら早かったもんね。良かったね、春海さんは明日も仕事だし」

「恭一もだろ。あぁ、もう明日の分も終わったのか?」

「・・・終わらないよ。っていうか、今日の分も追いついてないのに」

「今日も分もか?何やってたんだ」

「だ、だって。昼間のワイドショーの後、全然仕事が手につかなかったんだ。・・・そりゃそんなの、春海さんからしたら言い訳にもならないだろうけどさ」

「そんな事は言わない。まぁ、そんな日もあるだろう」

たしかに普段ならば、そう言っていたかもしれない。

仕事や作業の効率の悪さを、自分の実力と認めずに他者や何かのせいにしてしまうのは愚かしく、所詮はその程度の人間だと思う。

それは恭一にしても同じなのだが、しかし事、今回の理由であれば、同じ言葉を返そうとは思わなかった。

拗ねたように唇を下げる恭一は、今の自分の顔を知らないのだろう。

恭一と真逆に笑みが深まる一方の三城は、数杯目のグラスを舐めた。

自分の行動の責任をアルコールのせいにするのは嫌いで、酒を飲んでも意識を保てる程度を心がけている。

今もはめを外すつもりなどないのだが、気分も機嫌も非常に良い。

だがそれは、ただアルコールが要因というだけではなさそうだ。

「なら恭一は帰ったら仕事の続きをするつもりか?」

「んー。どうしよう」

「もう悩む事もないだろ」

「そうなんだけどさ。でも・・・じゃぁ、今日はさっさと寝て明日は朝から頑張る」

「なんだその、夏休み中の学生のような言い分は」

「がくせっ・・・ま、そうかも、しれないけど。デートの後まで仕事したくないなって」

「まぁ、一理有る。仕事なんて仕上がれば良いという意味では賛同はするがな。俺だって、今日は仕事をする気分になれずに放り出して来たんだ」

「春海さんも?そういう時あるんだ」

「そりゃな。まぁ、そういう事だ」

どうしてもという必要があれば、もちろんデートの帰りが深夜になっても仕事をする。

けれどそうでないなら、デートの後もその続きを自宅で浸りたい物だ。

それは恭一も同じだった、というたったそれだけの事で、満足感がまた一つ満たされる。

つい頬が緩んでしまう。

きっちりとした作業予定で忙しさも冷静に対処出来る自信のある三城とは違い、恭一は明日は必死になって焦りながら仕事をこなすのだろう。

けれど恭一の事だ、それでもきちんと仕上げるべき物を仕上げ、その見込みさえないのなら「明日から」など悠長な事は言わない筈だ。

「だったらついでだ、他にどこか行くか?」

「他、って?」

「飲みに・・・は、恭一が飲めないから無理か。どこでも良い。映画でも良いし、まぁ平日のこの時間だから選べる範囲も限られているだろうが」

ならば、やはり映画辺りが無難だろう。

恭一への伺いの言葉などポーズで、彼からも返答など返ってこない場合が殆どだ。

それよりも、先週確かに恭一が見たいと呟いていた映画を見に行くと決める方が少しの時間でも有意義だ、と内心決定しかけた時だ。

「え。どこでも良いの?」

「・・・行きたいところなど、あるのか?」

「あ、うん。どうしてもってわけじゃないし、無理も承知で、なんだけど」

おもむろに恭一が顔を上げ、苦笑と諦めの目立つ面持で恭一はスプーンを止める。

滅多に寄越さないリクエストと、三城が見たいわけではない映画。

ならばどちらへ向かうかというのは、聞く前に三城の中で決まりきっていた。



  
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