画面の向こうの・・・編・19



以前にも来た事のあるレストランであったが、予想に違わず旨かった。

コースメニューの全てに満足が出来、さすが三城が選んだだけあるなと納得している。

満腹感と満足感と、それから安堵感もあり、幸福な気持ちで腹も胸も満たされた。

そうして自然と頬が緩む恭一は、人一人分の距離を開けずに三城と並びエレベーターを降りていた。

「春海さん、美味しかったね」

「まずまずだったな」

「また来たいね」

「そうだな。恭一が気に入ったならまた来よう」

高い天井からオレンジ色の光が降り注ぐ硬質な石素材の床を、気持ち軽く歩いていく。

ふと見上げた三城もまた口元を綻ばせており、機嫌の良さが伺えた。

今日は半日以上仕事が手につかなかったが、明日は普段以上に捗りそうだ。

「でも春海さん、本当に良いの?」

「何の話しだ」

「今から、行くの」

「良いと言っているだろ。この時間なら誰も居ないだろうし、第一――」

呆れたように三城が言いかけた。

だが途中で言葉が途切れたかと思うと、反射的に見上げた彼は恭一ではない真っ直ぐ前方を見据えていた。

「・・・第一、普段ならもっと遅くなる時もあるだろ」

「春海さん?」

一瞬息を呑んだ三城が、さも何もなかったとばかりに言葉を続ける。

気にしないでおこうと思えば思えた程度だったかもしれない。

だが気になってしまったのは、言葉を再会した三城の足取りが急に早くなったからだ。

今しがたまで並んで歩いていた彼と、距離が空く。

恭一にすら不自然に映る三城を疑問に感じていた、ちょうどその時だ。

「あ、三城さん!」

「・・・え?・・・ぁ」

既に数歩分先を行く三城に恭一が追いつくよりも早かった。

高い、若い女性特有の声が静かなクラシック音楽のBGMを破り聞こえたかと思うと、同時にカツカツとヒールの靴音が響いた。

「やっぱり三城さんだ。偶然ですね」

「恭一、行くぞ」

「え?え、でも・・・」

男子校教師の恭一には不慣れな生足ミニスカートが、歩く度にヒラリと舞う。

細い腕が肩すらもほぼ覆うものなく露出され、その中央で柔らかな肉が見えている。

前方から声をかけると、三城の真正面で彼女は立ち止まった。

「三城さん、こんばんは」

「美咲ちゃん・・・」

昼間にテレビ画面で、ブログの写真で、見た顔がそこに居る。

濃い茶色の巻髪を肩から下へ落とした彼女は、人工的にボリュームを増させた睫をしばたかせた。

恭一自身は日中自宅に居らず、帰宅後も用事をしている事も多いので詳しくは知らないが、テレビで見ない日はないと言われている美咲だ。

まだ二十歳そこそこだろう彼女は肌艶もよく、綺麗に施されたメイクが華やかさを演出している。

さすがは芸能人といったところか、目を牽かれるものがあった。

しかし、恭一の一歩前をいく三城はといえば、今し方まで楽しく言葉を交わし有っていたのが嘘のように、唇が不機嫌そうに下がっている。

目は細められ、破棄のない眼差しで、プライドが高い彼が屋外でここまで彼が感情を隠しもしないのが珍しい。

三城と美咲を交互に眺める。

美咲には、恭一など目にも入っていないようだ。

「三城さんはお泊まりですか?」

「・・・いや」

「じゃぁお食事?一緒ですね。どこに行かれるんですか?私たちは上の方のフレンチで・・・」

高いヒールを履いた彼女は恭一と変わらない目線から、三城の面もちをのぞき込む。

三城の不機嫌さなどお構いなしで美咲が距離をつめる。

あからさまにピリピリとしている彼を気にしないでいられるというのは、いっそ驚きと関心だ。

「貴方には、関係のない事だ」

「・・・春海さん」

「そうですけど。一緒だったら、嬉しいかなって」

「共通の話題を作って?それで、またブログでも書くつもりか?」

同性の友人として自然な距離をと考え、斜め後ろから動けず、そこから横顔を見るしか出来ない。

けれど彼のその眼差しの抑揚の無さに寒気がした。

隣で見ているだけでもこれなのだ、それを向けられたのが自分であればと思うとあまり楽しくはない。

「あ、ブログ見て頂けましたか?約束通り、嘘は書いてないですよね」

「あぁ、そうだな。それに今日はある意味良い偶然だ」

三城の言葉の端々に感じられる嫌味。

それを感じられなかったのか、それとも恭一の気のせいなのか、視線の先で美咲はふと口元を緩めた。

立ち止まり無駄に動きもしない三城よりも、彼の正面に立つ美咲を見る方が容易い。

どうにもただ客観視を出来ないまま、恭一は息をひそめるしか出来なかった。



  
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