■グリッサード・・・・21



一週間が経つのは、やけに遅く感じた。

この間黒川とは一度も会っていない。

それどころか、一度も連絡を取っていない。

そこに不安を感じはしなかったが、寂しさは確実にある。

流の事、萩尾の事、それからこの一週間に起こった些細な事を話したい。

少しでも顔を見て、その熱を感じたい。

夏樹は毎日黒川の家に帰った。

自宅の方がスタジオから近い日であっても、彼の家に帰っている。

しかしそうまでしても会えなかったので、彼の多忙ぶりは本格的なものなのだろう。

「ん・・・」

一人寝を決め込んだ黒川のベッドで目を覚ます。

もはや慣れた光景。

一度寝返りを打つ。

そしてのそりと起き上った夏樹は、Tシャツと短パン姿でベッドから降り立った。

「コーヒー飲んで・・・朝食べにいこ・・・」

黒川行きつけの喫茶店。

煙草が吸える店でのモーニング。

それを一人で食べるのも、慣れてしまった。

そう考えながら寝室から出た時だ。

「・・・ぁ」

まず、明りの灯った室内に驚いた。

次いで、そこに居た人物。

ダイニングテーブルに向かいコーヒーカップを傾ける黒川に、夏樹は一瞬息を呑んだ。

「起きたか。おはよう」

「どうして・・・帰ってたの?」

「さっきな。また出かけるが、一段落がついたから帰って来た」

「仁・・・」

「夏樹に会いたかった。居ないだろうと思って帰っただけに、お前がいて良かったよ」

「仁」

ハッとすると、夏樹は小走りに黒川の元へと向かった。

「おかえり」

「ただいま」

「今帰ったの?」

「あぁ。夏樹の寝顔は堪能したがな」

「恥ずかしいよ」

「そうか?可愛かったぞ」

「か、可愛くなんて・・・」

日常だ。

黒川と居る、日常だ。

酷く安堵する。

心地よくて堪らない。

「コーヒー飲むか?インスタントだがな」

「飲む。ありがとう」

夏樹がダイニングチェアに座る。

入れ替わり立ち上がった黒川は、キッチンへと身体を向けた。

元気はつらつとまではいかないが、疲れ切っている様子もない。

この一週間黒川はどのように過ごしていたのだろうか。

仕事の詳細まで聞こうとは思わない。

けれどその一端くらいは教えてくれるだろうか。

キッチンに立ち、インスタントコーヒーの粉を夏樹が愛用しているマグカップに入れる。

電気ポットで湯を注ぐ姿をチラリと見て、夏樹は黒川から顔を背けた。

ふと壁掛け時計を見ると、時刻は午前九時。

朝というにはいささか遅い時間だ。

黒川がマグカップをマドラーで混ぜる物音を聞きながら、夏樹は何気なく、テーブルの上にあったリモコンを手に取りテレビへと向けた。

「仁は次、何時に出るの?」

「後一時間くらいってとこか」

「そっか。後でモーニングに行こうと思ってたけど、一緒に行ってる時間はないよね」

「別にその程度なら構わないぞ。これ飲んだら行くか?」

「良いの?うん、それじゃぁ――」

『いったい、どういう事なんでしょうね。美織くんに何があったのでしょうか』

「――え?」

ささやかながら黒川とデートの話しをしている最中だった。

ただいきつけの喫茶店にモーニングを食べに行くというだけであっても、一週間も会わなかった身からすれば立派なデートだ。

しかし、テレビから聞こえて来た声に、夏樹は一瞬にして黒川との会話よりもテレビに意識を奪われた。

テレビ画面には、朝のワイドショー。

生番組だろうそれは、大きな液晶画面の前に男性タレントが立ち、どこか深刻な顔をしていた。

そしてその液晶画面には大きな赤字で、「美織流、多数番組出演見合わせ!」と、書かれていた。

「どうした、夏樹」

「え?えっと、それが・・・」

テレビ画面を食い入るように眺める。

男性タレントが、流がどれだけの番組に出演をしていて、どれだけの番組への出演が未定状態となったのかを説明している。

しかしそれを黒川に伝えるだけでは、夏樹の驚きまでもは伝わらない。

いやでも先週のやりとりが思い出さされる。

夏樹を脅した流。

流を脅した萩尾。

萩尾を軽視した、流。

その一週間後に起こった、流の番組出演見合わせ。

それはただの偶然だろうか。

しかし偶然というには、タイミングが良すぎる気がしてならない。

マグカップを持った黒川が夏樹の前にそれを置く。

陶器がテーブルに触れるコトンとした音を聞いても、夏樹の意識はテレビから、その報道から離れてはくれなかった。


   

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