■グリッサード・・・・24



舞台から聞こえてくるクラシック音楽と裏腹、舞台裏ではばたばたとした物音と呼び声で溢れている。

小さな子供のバレリーナを誘導する講師もまた舞台メイク姿。

出演者でありスタッフでもある。

慌ただしい空間。

普段ならば出番以外は楽屋に居る事も多い夏樹だが、今日ばかりは違っていた。

舞台メイクにレッスン着姿で、舞台袖に立つ。

何せ今日は、数ヶ月教えた生徒の晴れ舞台だ。

「いつも通りに踊ってください。もし失敗しても、何食わぬ顔で続けてください。笑顔も演技の一つですからね」

「はい」

オープンクラスのバレリーナが集う場所から少し離れたところで、雄々しい声が上がる。

特徴的な、夏樹と同じ舞台メイクを施した五人の生徒が不安げな面持ちでそこに居る。

萩尾の姿も、当然のようにあった。

半袖タイプの衣装に身を包んだ彼は、今はヤクザではない。

夏樹の生徒であり、小泉バレエスタジオのダンサーだ。

流の番組出演停止事件の後、彼も萩尾もレッスンに通った。

萩尾と流の約束通り、翌日には流の番組復帰ニュースが流れていた。

世間的には、ただ騒がせた売名行為だなどと言われているようであるが、そうでない事は夏樹はよく知っている。

約束通り流は真面目にレッスンを受けるようになり、元々ダンスの筋は良いのだろう、発表会直前の男性クラス最後の日に、彼は小
泉バレエ団をさった。

彼は最後に「ありがとう」と言った。

その言葉は、今も忘れられない。

「さ、この曲が終わったら次ですから。スタンバイしてください」

「はい」

「僕は、ここで見ていますから」

客席から見られないのは残念だ。

しかし、しっかりと見届ける。

曲が終盤を迎え、終える。

暗転した舞台へ、彼らが走っていく。

誇らしい。

夏樹の生徒。

「俺も、頑張らないと」

今夜は黒川も見に来ている。

夏樹の一度目の出番はこの後、白鳥の湖のグラン・パ・ド・トロワ。

「・・・あ、皆ちゃんと回れた。良かった」

ダブルのピルエットを萩尾が綺麗に決めた。

小さく拍手をしながら、夏樹は緩みきる頬を止めようとは思わなかった。

【完結】






+目次+