偶然か運命か・編・11



 そろそろと、掛け布団が外されたベッドの上に上がる。
 そして少しばかり背後を気にしながらも、綾瀬に背を向けるように智は四つん這いになった。
「肌が白いな。それに、傷もなく綺麗だ」
 そっと、指が触れる。綾瀬の指。
 ざらつきなどないそれはとても優しく、尻から背をなで上げる。ゾクリとした。身体も心も震えたが、しかし智が求めている物はそれではない。
「何の痕もない。なら、ここは久しぶりのようだな」
「うん。ずっと、久しぶり」
「そうか。では、十分可愛がってやらないとな」
「あっ」
 ヒュッと、空を切る音がした。そして、その直後に、背と尻に裂かれるような痛みを感じた。
「痕が残りやすい体質か。たった一度で、しっかり痕がついたぞ」
「……もっと、赤くして」
「智はそういう奴だったな」
 背後で綾瀬が唇をつり上げ笑っているのが分かる。
 素直になれない智と話していた時のような歪んだそれではなく、きっと楽しげに。それを考えただけで、智のペニスは震えた。
「もっと尻を突き出せ」
 シーツに突いていた両腕を折り曲げそこに頭をつく。そして尻を高く上げると、再び空を切る音と尻や背を裂かれる痛みを感じた。
「はぁっ……」
 思わず瞼を閉じる。
 目を開けていても智から見えるのは、自身の腕とシーツ、その隙間から誰も居ない壁。
 綾瀬の姿など見えはしないが、それでも彼が手にしている物が何かは分かる。大方、革製の一本鞭だろう。空を切る音とその痛みには覚えがある。
「もっと声を聞かせる。面白くないだろ」
「あぁっ」
 激しい痛みに喉が詰まる。それでも、綾瀬に言われるがままに声が上がった。
 痛い。なんとも痛い。だというのに、どうにもそれを求めてしまう。
 何度も鞭が振り下ろされる。繰り返されるそれに、次第に痛みは増していき、打たれれば身体が跳ねた。
 綾瀬の鞭裁きは的確で、真っ直ぐなラインを描いている。背骨に当てる事などなく、腹に巻き付く事もなく、十分な技術を持っている。
 だからこそ、強い痛みでも安心して身を任せられた。
「痛い……はっ……あぁ……いた……」
「どうした?止めて欲しいのか?」
 激しく繰り返されるウィッピングで息が乱れる。
 どこか楽しげな声をさせ、綾瀬は鞭を打つ手を止めた。
 赤く腫れた、一本鞭の線状の痕だらけだろう背中を、彼の指先がなぞる。急に優しい物に触れられた背は、やはりゾクリとした。
「熱くなっているな。もう、音をあげるか?」
 さも優しげに囁く、意地悪な言葉。
 呼吸を整えきれないまま智は、自身でも驚く程、縋り付くかのような声があがった。
「やめ、ないで。もっとして。痛いのを、もっとして」
「素直だな。もっとも、一番素直なのはここだろうが」
「あっ」
 急激な勢いで、背後から睾丸とペニスが捕まれた。
 不意の事と、背中や尻ばかりに意識を向けていた事もあり、智は首を持ち上げて背を反らした。
「鞭を打たれただけでこんなにもいやらしい汁を垂らすなどとな。そんなにも嬉しく、気持ちよかったか?」
「気持ち、良い」
「変態だな」
「……はい」
 笑っている。綾瀬が笑っている。けれどそれは決して軽蔑のそれではなくて。
 握りこまれたペニスと睾丸を一度強く捕まれる。しかしその痛みに喜びを感じた時にはもう、彼の手はそこから離れていた。


    
*目次*