偶然か運命か・編・05



 後から来た二人の男は、ヨシとシンだと名乗った。聞いたばかりの名前も、直ぐにどちらがどちらであったか分らなくなる。
 智にとってはその程度の認識でしかない。
「行くか」
「智ちゃん、もう? やる気満々なんだからぁ」
「無駄話をする話題もないし、時間も無駄だろ」
 スツールから立ち上がり、財布を出す。数時間の間に飲んだ金額は、カズの分も合わせると想像以上だった。とはいえ、この店は明朗会計。ただただ、自分が飲み過ぎただけだ。
「男四人で入れるホテルは知ってるのか?」
 大抵のラブホテルは男だけの利用が出来ない。この辺りの、ゲイが集まるような場所にあるラブホテルならば入れる場所もあるが、それはカップル、つまりは二人連れでの場合だ。男が数人集まると悪巧みしかしないと思われているのか、そのような場所に使われたくないと、二人以上で利用出来ないホテルもある。
「僕の知っているところは三人までしか入れない」
 シティーホテルやビジネスホテルならば可能だが、このような深夜に予約もなく部屋が取れるものか。
 カズ達にも話した、以前6Pをした時はシティーホテルだった。遊んだ男の中に金を持った人物が居たらしく、事前から広い部屋を押さえた上で、ホテルマン達に詮索せぬよう金を握らせたらしい。もっとも智は、その男の詳しい事情も本名も何も知らない。知ろうと思わなかったし、興味もなかった。
「いや、ホテルじゃなくて俺の家に行こうと思ってさ」
 金を払い終わり身なりを整える智に、ヨシはさも当然とばかりに言った。後の二人が顔色を変えない事から、元からそのつもりをしていたようだ。
「お前の部屋? 部屋は綺麗なんだろうな」
 べつに、場末の古びたラブホテルであるのは構わない。一流ホテル並の清潔感までは求めていない。
 だがゴミ溜めの家は絶対に嫌だ。
 ヨシを値踏みするように眺める。彼の外観から判断して、あまり整った住まいで暮らしているとは思えない。それが顔にも出た。
 つい眉間に皺を寄せる智に、ヨシはとってつけたように笑った。
「普通だって普通」
「普通ってなんだ」
「だからさ、男一人暮らしの普通」
 それは一般的に、あまり綺麗な部屋を想像出来ない。
 つい、ため息が出る。
 どのようにするべきか。
 男達には遊ぶと言ったし、智自身もその身体も、そのつもりになっている。別の場所を今すぐには用意出来そうにない。智の家は智が満足出来る程度に清潔にしているものの、この一晩だけの関係しか持つつもりのない男達を招待しはくはない。
「綺麗だと言える家はないのか?」
 三人の男を順に見る。だが三人共に苦笑のような顔を浮かべるだけで、何も言わなかった。
 ヨシの家以上に汚いか、何か別の事情があるか。詮索するつもりはない。ただ智の家、と提案されなかった事は安堵する。
「で、どうする?」
 暫しの沈黙の後、カズが口を開いた。その口調は、さも智の答えが決まっているかのようだ。
 汚いだろう部屋に行きセックスをするか、このまま別の相手を探すか。もう深夜を過ぎて店内の人気もまばら。この機を逃すと一人の夜が待っているだろう。
 一度期待してしまった身体の欲求は抑えられない。
 ならばやはり選べる物は一つしか無い。
「分かった、仕方が――」
 妥協するべきだ、そう思った時だ。
 不意に、智の腕がやや後から引かれた。
「――え?」
 咄嗟に振り返る。智を囲んでいた男達も、後の人物に顔を向ける。
 そこに立っていたのは、さも不機嫌な表情を浮かべた、見慣れない顔だった。
「何をしているんだ」
「な、何って」
 何もなど、見覚えのない男に言われる筋合いはない。しかしその男は、さも呆れたように一度ため息を吐くと、更に智の腕を引き自分の元に引き寄せた。
「こいつは俺の連れだ」
「……は?」
「失礼させてもらう」
「え? ちょ……」
 この男が何を言っているのか理解が追いつかない。
 ただ分かるのは、その外観。
 仕立ての良さそうなスーツに、ちっきりと絞められたヨレのないネクタイ。涼しげな面持ちに、薄い唇。
 絵に描いたような、智のタイプ。
 その立ち振る舞いも、声も、話し方もどれを取ってもだ。
「なんだよ、男連れかよ」
「期待させやがって」
「冷やかしかよ」
 カズ達の声が耳に届く。だがもう声を掛ける間もないまま、智は見覚えのない男に腕を引かれ店を後にした。


    
*目次*