GW最後の一日・編・6



ようやく三城の機嫌が直ったのは、食事も終え幸田の愛車に戻り、そして口付けをし合ってからである。

彼曰く「密室」に二人きりになるやいなや、三城は幸田の唇を奪ったのだ。

今は無人だったとしてもいつ誰が訪れるとも解らないホテルの駐車場だというのに、そうは思えど負い目のある幸田は強く拒否も出来ず、短いキスを受け入れた。

熱い粘膜、甘い啄ばみ。

内心困惑を抱えていようが、一度[ひとたび]唇が触れ合えば三城の巧みなキスの快楽は無視出来ない。

幸田の鼻から吐息が抜けたのを見計らいキスが解かれると、助手席の彼はニッと笑って見せた。

「これでチャラにしてやる」

「・・・春海さん」

どこか腑に落ちない気もする。

けれど、幸い熱いキスシーンは誰にも見られなかったようだし、彼の機嫌を損ねてしまった原因を考えるならば、この程度安いものかも知れない。

諦めと納得に落ち着くと、気持ち新たに三城の案内するインテリアショップへと向かった。

依然運転に不安はあったものの行きよりも随分スムーズであるとは体感的にも実感出来、腹が満たされた事で脳が活性化されたのかも、などと素人考えが浮かぶ。

余裕が出て来た幸田は、ふとした疑問を思い出した。

「そういえば、どうして北原さんとレイズさん二人で居たの?仕事関係・・・じゃないって言ってたよね?」

三城の上司と部下。

その取り合わせはしっくりくるような、ちぐはぐなような、どちらであるかは解らないが幸田には違和感を与えたのである。

その一端には、片方が北原だったからかも知れない。

彼も三城と同じく、プライベートでもクラインと親しくしているのだろうか、という想像はあながち間違いではなかった。

「あぁ。単なるデートだろう。交際を始めたらしいからな」

「・・へ?こうさい?」

「いわゆる『お付き合い』だ。男女交際とでも言えば伝わるか?男同士だがな」

「・・・・・・えぇ!?嘘っ・・・」

まさか、あの二人が。

あまりに突然だったので握っていたハンドルが左右にぶれてしまい、幸田は慌てて前を見据えると呼吸を正した。

初運転で事故など縁起でもない。

「嘘など吐いてどうする。確かに結果報告は受けていないが、中間報告は聞いていてな。あの分だと上手くいったんだろう」

「・・・・・へぇ」

なんでも、幸田達が新婚旅行中より三城はクラインから連絡を受けていたらしい。

加えて、かのパーティーでローランが口にした意味深な一言を思い出さされた。

「あれ?じゃぁ、パーティーの時ローランさんが言っていた春海さんの隣りに居た美人って・・・」

「北原の事だろう。あいつも一般的には『美人』の部類に入るのだろうな。お前程ではないが」

「・・・北原さんは美人だよ。すっごい。」

とはいえ、あの場で示された「美人」がまさか北原であるなどとは考えもしなかった。

むしろ三城には彼とは別に美しい女性の秘書も居るのだろうかと嫉妬を滾らせていたくらいだというのに。

自嘲と苦笑が同時に唇にあがる。

「どうした、急に」

「ううん。なんだか安心したな、って」

「安心?」

「だって僕、北原さんに嫉妬とか不安とか持ってたから。あんなに綺麗で、一日中春海さんと一緒に居るんだ、と思ったらさ」

何もないのだと思えど、ふとした時に、例えば三城の帰りが遅かった時に過ぎってしまう不安。

いつかホテルのロビーで見た、北原の冷たい視線が忘れられなかった。

「恭一らしいといえばらしいが。馬鹿馬鹿しい」

「・・・」

だが、もう心配など沸き起こらないだろう。

北原にはあんなにも素敵な恋人が出来たのだ。

クラインについては何も知らないが、立ち振る舞いを見ているだけでもきっとジェントルマンなのだろうと想像できる。

「それにしても、こんな近くにゲイのカップルが出来たなんてビックリした」

北原とクラインが、という驚きから冷めてみれば、次に露になるのは「男同士で」という事実だ。

今までゲイである事を同類以外に知られる事無く生きてきた幸田は、身近に同じようなカップルが居た例がない。

だがよくよく考えてみると、北原は元々三城に興味があったようだし、レイズにしたってローランが三城の婿になど言っていた気がする。

「まぁな。日本人は隠したがる」

「仕方ないよ、皆春海さんみたいに堂々と出来ない」

ゲイであるというだけで、犯罪者のように扱われるケースもあると聞く。

社会的立場も危うくなり指を指されるなら、己の性癖を隠したいと考える者が多くても道理である。

三城に出会わなければ、幸田も一生後ろめたさだけを感じて生きていたかもしれない。

彼と出会わなければ、そう考えると今の己の幸福さに頬が緩んだ。

「Wデートとかしてみたいな」

「・・・俺は歓迎しないな。上司と部下だぞ?」

「それもそうか」

きっと楽しいと思うのに。

とはいえ三城の言い分ももっともで、苦笑を浮かべた幸田はハンドルを握り直した。

それに、あまりこの話題を長引かせるとまた三城の機嫌を損ねかねない。

よもやクラインに会いたがっているなどと思われては困る。

他の誰に対しても恋慕の情を抱く事などありえないと言っているのに、信用がないのだろうか。

会話を交わす余裕が生まれた運転は順調に進み、程なくして目的のインテリアショップに到着した。

「・・・わぁ」

さすが三城が良く利用しているというだけあり、一歩入ったそこは内装も商品も、どれもが近代的なスタイリッシュで洒落ている。

「恭一の趣味にも合ったか?」

「うん。こういうデザインとか色合いとか好き。・・・あ、あれうちのと一緒?」

「あぁ、ここで買ったからな」

幸田が指差したラックの他にも、見覚えのあるものや色違いの物を幾つか見つけた。

ソファーやベッドの大物もあれば、照明器具は様々な種類・大きさが並んでおり、デスクアクセサリーの類も充実している。

落ち着いた中にある華やかさが幸田の趣味にも合い、ワクワクと気分を向上させながら店内を見て回った。

「もう少し派手な色の方がいいかな。寝室はモノトーンだし」

「派手なフレームにすると中の写真の雰囲気とバランスが悪いだろ」

「それもそうか」

壁際に沢山飾られたフォトフレームを三城と共に吟味している時間はとても楽しく、形やサイズに迷ったけれど最終的指輪も一緒に収められる厚みのあるタイプで寝室に見合いそうなシルバーカラーの物を選んだ。

その上、ついでだと言う三城に予定外の物まで色々と買って貰い、その内いくつかを揃いで購入したので幸田としては至極満足である。

また三城にプレゼントさせてしまったとも思ったが、このような場合、幸田が遠慮を見せるのを彼が嫌うと知っている為、素直に好意に甘えた。

「良いの有って良かったね」

「あぁ。俺はお前が喜んでいる、ならそれが一番だがな」

並んで店を後にする。

大きな紙袋を片手に下げた三城は、後部座席にそれを積みながら唇を上げた。

「またそんな・・・」

何故彼はこうも恥ずかしげもなくそんな言葉を言ってのけれるのだろう。

赤く染まってしまう頬を隠すように、すっかり「運転手」の顔になった幸田は愛車の指定席に乗り込んだ。

「さ、次は何処だ?スーパーでも行くか?」

「そうだね。冷蔵庫の中、食べられる物入ってないかも」

何せ、冷蔵庫を管理している幸田が突発的に一週間以上家を空けたのだ、「食べられる物」どころか悪くしてしまった食材が詰まっているやもしれない。

「それに、明日から平日だから買い溜めもした方がいいかも」

「好きなだけ買えばいいだろ。車だし、俺が持ってやる」

「・・・買い物袋くらい自分でも持てるよ」

そんなに非力ではない、と口角を下げつつも、幸田は次なる目的地へ到着するまで、久々の手料理のリクエストを三城に聞いたのだった。



 
*目次*