三城×幸田・初めての・・・編15



「ご指導よろしく」

どの口がそんな事を言った、と罵る気持ちが一瞬幸田の脳裏を過ぎる。

実際に不愉快に思っている訳ではもちろん無いのだが、単純に「嘘つき」との言葉が思い当たっただけだ。

男は初めてだと言った事すらも疑ってしまう。

それほど巧みな性交だった。

男どころか幸田との行為が初めてなのが不思議なくらい、良いポイントを当てられまくった。

喘がされるだけ喘がされ、互いに性を吐き出した後の事を幸田は覚えていない。

気を失ったのか眠ってしまったのか自分でも解らず、気が付いた時には二人が交わったあのベッドにきちんとシーツをかけて寝かされていたのだ。

最後の記憶は全裸にシャツ一枚という姿だったはずなのに、今の幸田はバスローブを纏っている。

三城が着せてくれたのだろう。

その事に感謝を感じる事さえ出来ず、目覚めて呆けたままの幸田は何となしに首を横に向けるとサイドボードの上に置かれた置時計が視界に入った。

アナログの針が2時過ぎを指している。

「、、、っ」

それまでボンヤリとしていた思考が急に冴えた気がして、幸田は慌てて跳ね起きる。

周囲を見渡したが三城の姿は無い。

実際はまだしっかりと頭が目覚めてはいなかったようで、その事実が追い討ちをかけてパニックになる。

血の気が失せる気がした。

発熱時のような身体のだるさも気にならい程に焦り、転がるようにベッドから降ると鈍痛に重い腰を無理矢理立たせで部屋を出た。

自分の足で来た訳ではないため記憶が曖昧で、左右を見渡して左に行く。

覚えのある扉を開くと思った通りにリビングだった。

けれどそこにも三城の姿は無い。

居るとばかり思っていたため身体の力が抜けそうになるし、今更ながらだるさも思い出す。

壁についた手に力をこめて寄りかかりならが何とか立っていた。

どうしよう。

家に三城は居ないのかも知れない。

他の部屋に三城が居るという考えが何故かその時の幸田には浮ばなかった。

目覚めた時に当然居ると思っていた三城の姿がなかった、絶望に似た喪失感が再び襲う。

自分を置いて何処かに行ってしまったのだろうか。

そう思うと小刻みに身体が震えてへなへなとその場に座り込んでしまった。

このよく知らない部屋に一人置いていかれた。

外に出てタクシーを拾えば自宅に帰る事は容易なのに、何故かもう何処へも行けないような恐怖すら感じる。

まるで無人島に放置されたような気分だった。

どうしよう、僕は。

再び同じ言葉を脳裏に描いた時、リビングの中ほどにある扉がカタンと音を立てて開いた。

「、、、何やってるんだ?」

当然と言えば当然なのだが、出てきたのは誰あろうこの家の主、三城だ。

白いワイシャツをボタンを半分ほど開けて着、黒い緩めのズボンを履いた姿の三城が怪訝そうに、座り込む幸田を見据えた。

「あ、居た。良かった、、、」

「は?居て当たり前だろう。何言って、、、」

三城の姿を確認すると急に安堵感に包まれた。

そしてそれと同時に、自分が跳ね起きた理由をも思い出し素っ頓狂な声を上げる。

「あぁっ時間!!」

「時間ってこんな時間に何があるんだ?」

いぶかしむ三城の眉根は深く寄せられ不機嫌にさえ見える。

座り込んだままの幸田に真っ直ぐに歩み寄り、首を傾げたように顎を上げて見下ろした。

「こんな時間って、だって!行かないと、一度帰って、、、」

「おい、落ち着け。時計見ろ」

落ち着いてなど居られないとばかりにオロオロとするが、立つことさえままならない。

真ん前に立つ三城を見上げてそこに視線を留めて置くだけでもやっとで、焦りすぎて呂律の回らない口調でまくし立てる。

「見ました!二時くらいで、だって授業は4時からだからっ」

「あぁ、、、そういう事か。ホラ」

呆れたように三城がため息と共に呟きその場にしゃがむと幸田と視線を合わせ、ポケットから取り出した携帯を開いて幸田の前に掲げて見せた。

そこにはデジタルで、02:13、と表示されている。



 
*目次*