三城×幸田・初めての・・・編24



約束の時間通りに来た三城とホテルを出ると、予想と違わず

「行きたい店がある」

と言われた。

その後に「希望はあるか?」と聞かれたが、特に無いし、あったとしても今更言える雰囲気でもなく三城に従った。

徒歩だった先週とは違い、三城はタクシーに幸田を促す。

運転手に告げたのは地名ではなくビルか何かの名前だったため場所は解らない。

「遠いんですか?」

「うちの近くだ」

という事は麻生十番か。

やはり高級店か、とため息が漏れそうになるのを何とか留めたが、幸田の顔にはありありとそれが表れていたようだ。

「安心しろ、ドレスコードも無いような店だ」

幸田の顔を見ながら三城はクスクスと楽しげに笑って言う。

それは幸田の危惧する所と若干のズレを感じたが、僅かな安心には繋がった。

当たり障りの無い、日常の報告をし合っているとタクシーは目的地に着いたようだ。

幸田を先に降ろさせ、続いて三城が降りる。

目の前に立つのは三城の自宅マンションよりは見劣りするものの、十分に高級感漂うマンションだった。

「、、、ここ、ですか?」

不思議そうに伺う幸田に三城は首を振る。

「いや、この先だ。住所を言うよりこっちの方が早いからな」

直接行こうとして運転手に迷われた事があると、経験談を交えての話しに自然と笑みが零れる。

そこから角を2つ曲がったところに、住宅と住宅の挟間に隠れるようにして一軒の洋食店があった。

大きな看板も無いこじんまりとした佇まいで、うっかりしていると通り過ぎてしまいそうだ。

「ここだ」

木枠にすりガラスをはめ込んだドアを押し開け、カランカランとカウベルの音が品良く鳴り響く。

三城に続き中に入ると、店内は暖かい雰囲気でテーブル数は10も無いだろう。

それでも困る事はないのか、隅のテーブルには一時的に置いた感のあるナプキンやスプーンなども見受けられる。

実際7時過ぎという食事時にもかかわらず店内には2組しか居ない。

「いらっしゃい。まぁ三城さん。お久ぶりですね」

普段着にエプロンを付けただけの格好の中年女性がカウンターの奥から現れた。

ふっくらとした体型で優しげな面持ちをしており「おふくろ」といったイメージだ。

「あら、今日はお二人なんですね」

「えぇ、一人暮らしの彼に暖かい食事を、と思いまして。」

「まぁ、嬉しい。さぁお好きな席へどうぞ」

三城の後ろに立つ幸田に「どうぞ」と促して彼女はまたカウンターへと消えていった。

それを無意識に目で追っていた幸田はハッとし、角の4人掛けテーブルへと座った三城を追うとその前に腰を降ろした。

早速テーブルにすでに置かれているメニューを広げている三城を見つめ、幸田は口を開く。

「何だが、意外です。」

「何がだ?」

今日の三城は機嫌がいいのか、とにかく良く笑う。

「三城さんの進める店だから、もっとこう、お洒落っていうか今時っぽいお店かと思いました」

言った後に、「このお店も素敵ですけどね」と慌てて付け加えた。

「まぁそうだろうな。俺だって家庭的な店なんてここくらいしか知らないし、特に探そうとも思わないしな。」

なんでも、仕事帰りに食事をするタイミングを逃し、デリバリーなどの気分でもなく駅前まで行けば何かあるだろうと珍しく歩いた時、たまたま閉店間際のこの店を見つけたらしい。

ギリギリの時間であったにも関わらず店主とあの女性の対応は親切で、嫌な顔一つせずに「一番お勧め」という煮込みハンバーグを出してくれたという。

「それは旨かったよ。また来たいと思うほどに」

それ以来、早く帰れる時などは思い出して足を運んでいる。

「へぇ、、、」

その話はますます意外だった。

何というか三城の人間味帯びるエピソードはあまり本人の口から聞かないからだ。

「だから俺のメニューは決まっている」

そう言って優しげな笑みを浮べ、閉じたメニューを幸田に差し出した。



 
*目次*