三城×幸田・初めての・・・編32



吹き零れの音は直ぐに止んだ。

気の回る三城の事だ、火を止めてくれたのだろう。

そうでなくても吹き零れを放っておく人の方が少ないだろうが。

本来の自分とはどんなだっただろう、などと不毛な事を考えながら、幸田は早急に着替えを済ませた。

知らず知らず深いため息が零れてしまう。

三城の前だと調子が狂うのか、ちゃちな失態ばかりを重ねてしまのだ。

格好をつけようとまでは思っていなくとも、やはりそれなりにスマートで居たい。

それなのに、そう思えば思うほど空回りをしてしまう。

今まで何でも無かった事が、急に出来なくなる感覚。

良い傾向なのか悪い傾向なのかの判断もつかない。

「お待たせしました、あ、火止めてくれたんですね。今コーヒー淹れますから。」

昨日とさして変わり栄えのしないスーツ姿で茶の間に出た幸田だが、なんとなく三城の顔が見れない。

そそくさと台所に向かえば、音で判断した通りに火は止まっていた。

随分と吹いたのだろう。

ヤカンの中は沸かす前の半分以下になっていた。

棚から違う模様のマグカップを二つと、インスタントのコーヒーを取り出す。

「三城さん、コーヒーに何入れます?」

「いや、ブラックで構わない」

こんなやり取りが無性に嬉しく、つい頬が緩んでしまう。

先ほどまでの鬱々としたモノが嘘のようで、現金が自分がいっそ可笑しい。

ブラックの三城のコーヒーと自分のやや甘めのコーヒーを両手に、今度は大人しくまっていた三城の元へ戻った。

「どうぞ」

「あぁ、ありがとう」

コタツにもなるようなちゃぶ台テーブルの上に、ブラックコーヒーが入ったマグカップだけを置く。

少しだけ躊躇したが、そろそろと三城の隣に腰を落ち着かせた。

隣の三城が妙に気になる。

両手の中にぬくもりを持っているコーヒーを、気でも紛らわせる為にグイッと飲んだ。

「あの映画、俺も見た。ああいうのが好きなのか?」

TVラックの下に置いてあるDVDを見て三城が言う。

「えぇ、SF系は割りと」

「だったら、アレ見たか?三年ほど前の、、、」

どうやら三城と幸田は映画の趣味が合うらしく、会話は弾んだ。

「今度、一緒に見に行こう。」

「はい、、、もちろん」

思えば三城の趣味なんて知らなかったけれど、映画は好きなのだろう。

話す姿が生き生きとして、「少年のような」という形容詞が実に似合う。

気が付けばカップの中身は底が見えており、時間も随分と経っていたようだ。

出発予定時間に急かされて、マグカップを素早く洗って家を出た。



 
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