三城×幸田・初めての・・・編33



いつもの出発時刻よりも若干遅くなってしまったが、さすがの三城の運転テクニックで予備校までは驚くほど早く着いた。

それをありがたいとは思いながらも、残念に思っているのも事実だ。

また一週間会えない。

ビルとビルに挟まれて影になった場所の路肩に駐車し、二人は別れを惜しんだ。

予備校から少し離れた場所に停車したのは、知り合いに二人で居る所を見られないようにとの三城の配慮だろう。

たかだか一週間。

それも同じ東京都内に居る。

それでも、少なくとも幸田にはその時間がとてつもなく長く感じられた。

「電話する。メールも」

三城は陰りを見せながらも真剣な面持ちでそっと囁き、膝の上に置いた幸田の手を上からギュッと握りこむ。

「僕も、、、必ず」

無理をして微笑もうとしたのが、ひきつったような顔になっただろう。

寂しくてたまらない。

三城の指が幸田の唇に触れた。

何かを確認するかのように親指が何度も行き来するが、それは直ぐに離れていった。

キスはしてくれないのだろう。

場所を思うと納得出来るのだが、少し期待してしまっていた為残念さが胸に広がる。

「じゃぁ、行ってきます」

出来るだけ明るく振舞い、幸田は車から降りた。

バタンと小気味いい音を立ててドアが閉まる。

三城は動くつもりがないようでエンジンを切ったまま、フロントガラス越しに幸田を見つめた。

自分からは離れがたいのだが、そんな事を言ってはいられず三城に背を向ける。

後ろ髪引かれる思い、と言えば大げさすぎるだろうか。

いっその事走ってしまいたいが、いかにも未練たらしいそんな姿を三城に見せるのは恥ずかしかった。

5分ほど歩くと、予備校のビルに着いた。

このビルは自社ビルで、8階建ての全てが予備校の施設となっている。

教室や職員室はもちろん、自習室や図書ルームもあり、それぞれにインターネット接続の出来るPCも数台完備している。

生徒は高校生から浪人生まで、下は15歳から上は様々だ。

昨今は年配者の大学受験がにわかブームなのか、父親より年上だろう年代の生徒も数名居た。

もっとも幸田は高校1年生の受け持ち故、時間帯すら合わず姿を見る事も稀なのだが。

土曜の今日は職員会議も無く、始業1時間弱前に着いたが問題は無い。

「幸田先生、こんにちは」

職員室に向かう廊下で後ろから声をかけられ振り返ると、一人の女子生徒が居た。

なかなか可愛いだろう部類の、受け持ちの生徒だ。

しっかり作りこまれたメイクや落ち着いた雰囲気のせいだろうか、16歳という年齢には見えない大人びた子だ。

制服さえ着ていなければ到底高校生には見えず、今日は土曜とあって私服の為、女子大生かOLと言われても納得してしまいそうな感じだった。

「瀬野さん、こんにちは」

「先生、教えて貰いたい所あるんですが」

「解った、授業前に自習室に行くから待っててください」

「ありがとうございます」

甘ったるい口調で言いながらじゃれるように幸田の腕に絡み付き、メイクで大きくした目を可愛らしくパチパチさせて見上げる仕草は気持ちのアピールなのだろうが、ゲイである幸田には何の効果も無いだろう。

幸か不幸か、その事実にお互いが気づいていなかった。



 
*目次*