三城×幸田・初めての・・・編35



夕焼けに映し出され真っ赤になった町並みを車窓から眺め、幸田はため息を吐く。

ちょっとした気の緩みだった。

夕食を摂ろうと駅前まで出たのが悪かったのか、気がつくと幸田は電車に揺られていた。

出入り口扉に寄りかかった身体がガタンと揺れる。

「意外と近いんだよな、、、」

三城の会社は、さすが大手商事会社だけあって新宿という一等地にある。

三城の住む麻布十番からはもちろん、幸田の住む阿佐ヶ谷からも電車で一本、数駅程度という距離だ。

生憎二人の家は、新宿を挟むように左右にあるうえ、乗り換えも必要とするのだが。

幸田は財布から取り出した三城の名刺を視線の高さまで上げて眺めた。

何処で聞いたのかは忘れたが幸田にも覚えのある会社の名前。

それに三城のフルネームと役職が書かれたシンプルながらも上質な名刺。

めったに使わないし、申し訳程度に一応持ち歩いてるだけの自分の名刺とは雲泥の差だ。

「つまらない名刺を持つ奴はつまらない仕事しか出来ない」と誰かが言ったのをフと思い出す。

全くその通りかもしれない。

いくら眺めても何も変わらないそれを再び財布に戻そうとしたが、また住所を見る為に取り出す事を考えそっと胸ポケットに忍ばせた。

これから行ってどうするとも考えていない。

連絡は何一ついれていないし、もちろん約束なんて有るわけが無い。

ただ勢いだけで電車に飛び乗ってしまったのだ。

会える保障すら、無い。

引き返そうか、、、、そんな想いが脳裏に過ぎった瞬間、車内にアナウンスが響いた。

『新宿〜新宿〜』

「あ、、、」

一瞬の惑いと気の緩みから、見事に下車する人波にさらわれてしまい幸田はホームに押し出された。

いつでも人の多い場所だが、6時過ぎという時刻は退社した会社員も、遊びに行くまたは帰る若者も多く、いつも以上に雑多としている。

その為立ち止まってなど居れるはずは無く不可抗力とばかりに流しに流され、やっと波から逃れられたと思った時には改札の近くまで来ていた。

現在地を確認する為見上げた改札名が書かれたパネルには、数あるそれらの中から、三城の会社へと一番近い名前が書かれている。

これでは行くしかないな、と観念したように幸田はため息を吐き改札へ向かい歩き出した。



 
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