三城×幸田・初めての・・・編37



自分で言うのもなんだが、今までナンパされた事も逆ナンされた事も何度もある。

だがその度に軽くあしらい、それで済んでいた。

「ウザイ」「ケチ」などの罵声は浴びせられたがそれだけだ。

それなのに今回は様子が違う。

「危険だ」と本能の信号が点滅する。

最近TVや新聞を賑わす少年犯罪のニュースや「誰でもよかった」などと言うふざけた言葉が脳裏を駆け抜けるが、幸田は動く事が出来なかった。

いや、駆け抜けたからこそ、へたに動いてはいけないと感じたのかもしれない。

「遊んでくれる気になった?行こうよ」

抵抗を止めた幸田を見た若者はピアスの開いた唇の端を上げて笑い、良いとも嫌だとも聞く気がないのか幸田の腕を引いて歩き出す。

幸田もまた、腕を引かれるがまま足が勝手について行く。

ついて行ったとしても、ここで拒否を続けたとしても結果は同じかもしれない。

それどころか抵抗した方が悪い結果に導かれそうだ。

パニックになった思考が、何処か他人事のように考えた。

「どうしよう」という言葉が堂々巡りにグルグルと回り、頭がぼんやりする。

だが次の瞬間、聞き馴れたバリトンが、霧架かった脳を一瞬で覚醒させた。

「恭一!恭一何処へ行くんだっ!」

聞きなれたはずなのに、聞きなれないほどに焦った声。

ハッとなり声がした来た方を見ると、三城が息を荒げて走って来ていた。

「三城さんっ!」

今一番会いたかった男だ。

自分が若者について行こうとしていたのが恥ずかしい。

我に返った幸田は、掴まれていない手を近づきつつある三城へと伸ばした。

「チッ、知り合いかよ」

若者は苛立たしげな声と共にあっさりと幸田の腕を離した。

争ったところで得をしないと考えたのだろう。

腕を離されると、幸田はバランスを崩したようによろけたが、すぐに若者から離れた。

「恭一に何をした」

二人の元へ駆け寄った三城は、暗がりでよくは見えなかったが、鬼の形相とはこの事だろう激しい面持ちで、まず若者の胸座を掴んだ。

初めて聞くほどの怒声だった。

若者はホールドアップとばかりに両手を顔の横に上げてみせる。

「何もしてねーよ。一人寂しそうにしてたから遊びに誘っただけ。」

悪びれもしない若者に三城はまだ何か言いたそうだったが、すぐに捨てるように若者を離し幸田へと向き直り細い肩を抱いた。

「どうしてお前がここに居る。何故連絡をしなかった?」

軽く揺さぶられながらの問いには相変わらず怒気が含んでおり、幸田は肩をすくませた。

何故自分が怒られなければならないのか、という問いは浮んでこない。

「ごめんなさい、僕は、、、その」

「くそっ、、」

「あっ三城さん?」

忌々しげな声で一言呟くと、三城は幸田の腕を掴んで大通りへと歩いて行った。

これでは先ほどの若者と大して変わらないのだが、当然のように幸田は抵抗はしない。

三城が自分に危害を加えるとは思わないが、今の三城には鬼気迫るものがある。

困惑したまま三城が手を上げて止めたタクシーに押し込まれ、告げられた目的地はいつも待ち合わせで使うシティーホテルだった。



 
*目次*