三城×幸田・初めての・・・編38



あれよあれよという間に、幸田はホテルの一室に連れ込まれていた。

三城が何を考えているのかは解らない。

何かに怒っている風には見えるのだが、その対象が何かを聞き出せずにいるのは、硬く結ばれた唇が機嫌の悪さを物語っていたからだろう。

タクシーに乗ってからも三城は幸田の腕を離さず、口を開く事も無く、とても話し掛けれる雰囲気ではなかったのだ。

じっと何かを睨みつけるように窓の外を眺めていた。

幸田を見もしない姿勢に、言えぬ不安も覚えてしまう。

やはり軽率な幸田に怒りを感じているのかもしれない。

タクシーから降りた後も腕を掴まれたままだったが、甘さの無い三城の表情から周囲の目を気にする事も無く、そんなこんなで普段の幸田には全く無縁なシティーホテルの一室に来る事となったのだ。

ホテルに詳しくは無いが、圧迫感を感じさせない広々とした部屋はそれなりのランクなのかもしれない。

先に中へと進められた幸田が、内装を見渡しながら悠長にそんな事を考えていると、いきなり後ろから抱きすくめられた。

不意の事だったため、ビクリと身体が震えてしまう。

だがそれ以上に、耳元で発せらせた三城の声が震えていた。

「どうして、あそこに居た?」

先ほども投げかけられた質問だったが、今は随分と苦しげだ。

その搾り出すような声に驚いた幸田は、答える事が出来なかった。

すると抱きしめる三城の腕がより一層強くなり、耳たぶに触れそうな唇で、熱い息がかけられる。

「、、、俺を、待っていたと思ってもいいのだろうか?」

それはいつもの自信に満ち溢れた三城の声ではなかった。

不安げで、頼りなくて、とても先ほどまで激昂していた人間とは思えない。

今三城はどんな顔をしているのだろう。

振り返りたくても、三城の腕により自由を奪われた身体では叶わない。

「恭一が男に触れられているのを見て、我を忘れた。まずはお前を助けるべきだったと、申し訳なく思っている。」

「いえ、、、それは別に」

パニックに陥っていた為そんなに理論然と考えれていなかったし、その後すぐに三城が幸田に触れたから幸田としてはそれで十分だった。

「お前があいつについて行ってしまうんじゃないかと、怖かったんだ。」

「まさかっ。あ、、でも、三城さんが来てくれなかったら、どうなってたか解らないけど。」

驚きに声をあげたが、すぐに思いなおした。

確かに自分はあの若者について行こうとしてしまっていたのだ。

今更ながらに自分の行動に唖然とする。

「それは、あいつと遊びたかったというわけか?」

「違います!そうじゃなくて、仲間を呼ぶとか脅されたから、、、、」

「そうか、怖い思いをさせたな。」

徐々に興奮をしてきた幸田に対し、三城はどこまでも静かな口調だった。

それは優しさからなのか、冷たさからなのか計り知れない。

「元はと言えば、僕が勝手にあそこに居たわけですから」

「そうだ、どうしてあそこに居るなら連絡をしなかった?来た所ではなかったんだろ?」

それには、幸田はすぐに答える事が出来なかった。

何故あそこに居たのか。

それは先ほど三城が自分で言ったように、三城に会いに来たからだ。

では何故連絡を入れなかったのか。

それは拒絶される事を畏れたからだろう。

迷惑に思われるという想いが、心から離れなかった。

再び口をつぐんだ幸田に、三城は思いもよらない事を言う。

「、、、俺を待っていた訳ではないのか?別の奴を、、、待っていたのか?」

そういえば、最初の問いに幸田はまだ答えていなかった。

「違います!!僕が待っていたのは貴方です」

心外とばかりに声を張り上げ否定する幸田に驚いたのか、抱きしめられていた三城の腕の力が緩んだ。

幸田はその隙に身体を反転させ、正面から三城を見上げた。

高ぶる感情が、思考を上手く繋いでくれない。

ぐちゃぐちゃになる言葉を必死で纏めながら、幸田の瞳に涙が浮んだ。

唇をかみ締めていないと、すぐにでも泣き出してしまいそうだった。

「貴方に、会いに行きました。でも迷惑かな、って思って。仕事もあるだろうし、どうしても連絡をする事が出来なかったんです。帰ろう帰ろうと思っても帰れなくて」

「迷惑な訳あるか。恭一が会いに来てくれるなら、俺はいつだって嬉しい」

「でも、仕事も忙しいだろうし、、、」

あの大きなビルを思い出した。

三城はあそこに必要とされている人間で、自分なんかが邪魔をしてはいけないのだと、思い知らされた気がしている。

「自分は会社で仕事をしていて、そのビルの前でお前を何時間も待たせた。すぐに会える距離に居ながら、何時間も一緒に過ごす時間をふいにしてしまった。その悔しさがお前に解るか?」

「それは、、、、」

三城の手が幸田の背中を掻き抱く。

抑えられていた何かが外されたように、先ほどまでの静かな声とは裏腹な、激しく情熱的なモノだった。

「そのうえ、あんな男にお前を触れさせてしまって、危険な目にも合わせた。自分が情けない」

心底からの言葉なのだろう。

苦々しげなそれは、一重に三城自身へと向けられている。

幸田はこれまでの迷いが少しづつ消えていく気がした。

信じよう、三城の想いを。

高ぶり過ぎた感情から、幸田はとうとう涙を零した。

「ごめんなさい、、、三城さん。僕は、、、」

幸田は続く言葉を発せれなかった。

三城の薄い唇に、唇を塞がれたからだ。

熱い舌が口内へと侵入し二つを絡み合わせ、触れ合うザラリとした感触が全身を逆立てるように痺れとして走る。

お互いを強く求めながら唇が痛くなるほどキスを続け、気がつけば幸田はスプリングのよくきいたベッドの上に押し倒されていた。

こんなにも相手を欲したのは、初めてかもしれない。

それから幸田は三城に、意識がなくなるまで喘がされる事となったのは、言うまでもない。



 
*目次*