三城×幸田・初めての・・・編・5



カラオケボックス以外で個室の食事所なんて想像が出来ない。

店内に入り三城がスタッフに何かを言っている。

予約の確認でもしているのだろう。

すぐに別のスタッフが来て、その「個室」に向かう。

店員、と言うよりボーイと呼んだ方がよさそうな、品の良い中年の男性だった。

雑誌やTVで見た事のある内装は、「特別な空間」と歌うだけあり、優美で上品だ。

一流ホテルのスィートルームを連想させる。

もちろん実際に幸田が見た事など無いのだが。

一般のテーブルが並ぶ場所を通り抜け、廊下を少し進むとボーイは立ち止まった。

店内同様に優美で豪奢な扉がある。

生粋の庶民だと自負する幸田には、格式と威圧感を感じさせた。

ボーイがそれを引いて開けると、三城は悠然と中に入って行ったが、幸田は思わずボーイに会釈をしてしまい、微かに笑われた気がした。

よく考えると教育の行き届いていそうなこの店のスタッフがそんな事をしはしないだろうが。

中に入ると当然だがカラオケは無く、中央にシックな装いの4人掛けテーブルが鎮座している。

温かみのあるオフホワイトの壁には額に入った絵画が掛かっているが、それ以外は何もなかった。

ボーイに引いてもらった椅子に腰掛け、ボーイが細長いメニューを示して見せる。

「本日のお勧めワインになります」

その革張りのメニューを二人に見せながら、ワインの説明を始めた。

けれど幸田には彼が言っている事の半分も理解が出来ない。

元々食べ道楽では無く、アルコールも飲みはするが何でもよかった。

(ただ日本酒は少し苦手だ。)

家で一人で飲む事も殆どなかったし、とりあえず男として付き合い程度飲めないと、とは思っている。

そうこうしているうちに、三城はボーイにいくつか質問し会話をすると、注文を終えていた。

カタンと後ろで音がしたので振り返って見たが何もなく、ボーイが出て行ったと知る。

そうなるとこの狭い個室で、三城と幸田は二人っきりという事だ。

今まで何度も二人っきりになっているし、二人とも思春期の10代じゃない。

それでも緊張し、変に鼓動が高鳴ってしまう。

「10日も会えなかった」三城が言った言葉が幸田の耳元で再び聞こえた気がした。



 
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