三城×幸田・初めての・・・編・6



適温に温かい個室。

離れていた間の近況を、二人は報告しあった。

特に変わりは無かった、という三城の仕事ぶりを聞くだけで幸田はため息が出た。

よく、そんなに忙しい中で三日と開けずに見舞いに来れた物だと思う。

幸田はというと、こちらは入院前よりも忙しくなっていたくらいだったが、受け持ちが高校一年の幸田は3年や浪人生を指導しているベテラン教師に比べればまだ楽な方だろう。

「そういえば、恭一は何を教えてるんだ?」

不意打ちの「名前呼び攻撃」に息を呑む。

三城は幸田をこうして名前で呼ぶ時と、「お前」と呼ぶ時とあり、大抵が「お前」なのでいきなり名前で呼ばれると恥ずかしさから咽てしまう。

「ぼっ僕ですか?一応数学を」

「一応、って何だ」

幸田が恥ずかしがるのを知って、反応をからかうように三城がスクスクと笑う。

会話は弾み、時間は流れるように過ぎていった。

食前酒に始まり、料理が運ばれ、食後のコーヒーが出された時には、入店から2時間弱が経っていたようだ。

「それじゃぁ、行こうか」

頃合を見計らった三城が、何事もスマートな彼らしく、スッと立ち上がる。

その手には当然のように伝票が握られており、幸田は焦った。

けれどここで何か言うより店を出てから半分を渡せば良いか、と判断した幸田は急いで三城の後を追う。

一歩二歩遅く三城に追いついた頃には、既にカードを店側に渡しており、金額は解らなかった。

そのカードの色がゴールドだった事にまた驚き、改めて三城の生活水準の高さに驚かされる。

「ありがとうございました。おたのお越しをお待ちしております」

最後まで丁寧なボーイの接客に好感を持ちながら、すっかり寒くなった夜の街に立った。

「おいくらでしたか?」

料理もワインも三城がさっさと頼んでしまったので価格を詳しくは覚えていないが、以前何かのメディアで見た時には驚くような価格だったはずだ。

だから金額を聞くのが怖くないと言えば嘘になるが、せっかく三城が連れて来てくれた店に文句を言う気にもなれない。

財布を出しながらの幸田の問いに、三城は目を見開いた。

心底驚いた相貌の三城に、何故驚くのか解らない幸田は不思議そうにするばかりだ。

「、、、いや、いい」

暫くの沈黙の末、先に口を開いたのは三城だった。

「でも、、」

「今日は、お前の復帰祝いって事でいいだろ?」

柔らかく微笑む三城のしっかりとした手が幸田の白い頬に伸ばされかけてたが、遠くで聞こえた車のクラクション音に我に返り、その手は頬に触れる事無く下ろされた。



  
*目次*