三城×幸田・初めての・・・編8



押されたエレベーターのボタンは、38階まである中の32階だった。

チンッと高いベルの音がしスルスルと扉が開く。

マンションのものとは思えないエレベーター内をキョロキョロと見ていた幸田は、その音に慌てて降りる。

その廊下も、知らなければホテルだと思ってしまうだろう作りだった。

壁は品のいい深緑でそこに取り付けられた金フレームの照明は薄明かりで、床はワインレッドのカーペットだ。

扉と扉の間隔はとても広く、ワンフロアに数件しか部屋が無いのだろう。

角部屋の前で三城が立ち止まる。

扉のすぐ横の壁に、ローマ字で「MIKI」のプレートが掲げられている事だけが、唯一ここがホテルでは無い事を教える。

カード式の鍵を開閉し、銀色の扉を引いて開けた。

「どうぞ」

「あ、お邪魔します」

いそいそと入った玄関もとても広かったが、ここに来てやっと「個人宅」といた生活感が少し感じられた。

後ろでガチャリと施錠の音がし、何故かドキッと鼓動の高鳴りを感じてしまう。

「さっさと中に入れ」

玄関に突っ立ったままの幸田に三城の鋭い声が飛ぶ。

「すみません」

急いで靴を脱ぎ、すでにさっさと奥へと向かっていた三城の後を追った。

玄関から左右に分かれていた廊下を右に向かう。

磨りガラスがはめ込まれた扉が開けられ、後に続くとカウンターキッチンとリビングが広がっていた。

キッチンはまるで使った様子が無く、モデルルームというより商品の展示場を思わせる。

何畳、とすぐには解らないくらい広い空間や壁一面のガラス張りには圧倒されたが、反対側にあるリビングスペースはまだマシだった。

大きな液晶TVと程好く距離をおいて置かれたローテーブルとL字型に配置した黒い革張りのソファー。

二人掛けのダイニングテーブルの上には新聞とノートパソコンが置かれ、一応の生活感があったからだ。

「思った以上に広いですね、、、一人で寂しくないですか?」

思ったままを口にした幸田に対し、三城はキッチンに向かいながら冗談めかしに返してきた。

「そう思うなら二人で暮らしてみるか?」

「えっ!?え、それは、、、」

三城の口調は何処までが本気か解らない。

だから、笑い飛ばす事も真剣に考える事も出来ないのだ。

こんな事は今まで、入院中も電話でもよくあったし、そのたびに幸田は戸惑い三城はクスクスと笑い話しは流れた。

三城は軽口を言う人で一々本気で捉えてはいけないのだろうと幸田は理解する。

キッチンの中で唯一使用している冷蔵庫から缶ビールを取り出した三城は二本手にすると、幸田の横を通り過ぎソファーに座った。

「座れよ、恭一」

プルタグが既に開けられている缶ビールを一本幸田に向けて差し出しながら、三城は悪戯をしたような笑みを浮かべて見せた。



 
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