初恋の詩  より遠藤×実   ちょい読み [本文より抜粋]



私立・霧島保育園。

此処は都内にありながら緑豊かな園内と自由な保育として有名な保育園である。

下は0才から、上は小学校就学前まで。

園児数は多いが保育士の人数も多く、それぞれ少数にクラス分けをされている、そんな保育園の一角。四才クラス・トラ組からは今日も元気な子供たちの声が聞こえる。

「先生、おはようございます」

「えんどう先生おはようございます」

「おはよう」

朝の通園時間。ピンクや水色のスモックに身を包んだ園児達が親元を離れ教室へと入ってゆく。

まるで悩みもないように溌剌とした園児達を迎え入れ、トラ組担当保育士・遠藤豊[えんどう・ゆたか]は口元を歪めただけの笑みを浮かべた。

遠藤は勤続八年。霧島保育園の園長とは古い仲で、彼に恩があるからこそ保育士になり、此処で保育士をしているようなものだ。

その眼孔はただの保育士というには鋭過ぎ、元々子供が好きだった訳でも、子供の扱いが上手い訳でもなかったが、それでも何故か園児にも保護者の母親にも人気のある保育士であった。

園児はともかく、保護者───特に母親からの人気の要因は遠藤の容姿故だろう。180cm代の長身に、園児と遊ぶには不必要な程に引き締まった肉体。

そして、一見して眼力の強さが引き立ってはいるが、よく見ればそこらの俳優やタレントを凌ぐばかりに容姿が整っている。

遠藤本人に自覚があるかは別として、彼を見たいが為に用も無くトラ組を除く母親も多くいる程であった。

「先生、今日もよろしくお願いします」

「いってらっしゃ……」

「せんせぇ! ゆたせんせ、おはよぉ」

今から何処へ行くのか、派手な服装と派手な化粧の母親を追い出そうとしていた時である。周囲の状況などお構いなしに、廊下から走ってやってきた一人の少年が遠藤の腹へ勢いよく飛び込んだ。

「うっ……実か。おはよう」

「おはよう、ゆたせんせ」

遠藤の腰に掴まり、その少年・谷野実[やの・みのる]は満面の笑みを向けた。

トラ組の園児である実は、柔らかな髪と大きな瞳が特徴的で男児にしておくにはもったいない程に可愛い子だ。

加えて、トラ組の誰よりも、遠藤に懐いてもいる。それは遠藤にとってもまんざらではなく、実が懐いているのと同等以上に、遠藤にとってもある種特別な園児だ。

だが一方、その『特別』は他へのトラブルの要因にもなっていた。

「みのくん、はなれてよー。わたしもえんどう先生とあそびたい」

「やだ。ゆたせんせ、みのの」

「はなれてよー」

「やだ」

遠藤にしがみつく実に、クラスメイトの少女が苛立った声を上げる。

いつもの風景。ただその相手がどの園児であるか、一日に何度あるかというだけの違いでしかなく、その中央に居るのは決まって実だ。

「おい、ケンカはやめとけ。園長が来るぞ」

「えんちょー先生やだ。こわいもん」

「俺も怖ぇだろ」

「えんどう先生もこわいけど、えんちょー先生もこわいもん」

「だったらケンカすんな」

「はぁい」

「はぁい」

「あ、じゅんくん来た。じゅんくーん」

実に噛み付いていた少女が他の園児の登園に気を取られパタパタとそちらへかけていったが、実は相変わらず遠藤の膝にしがみ付いていた。ようやく独り占めが出来たとばかりなのだろうか。

園児の、否、実の見せる独占欲はなんとも可愛らしいものだ。フッと口元を緩め、遠藤は実の頭をポンポンと叩いた。

「ほら、実も向こうで遊んで来い」

「やだ。みの、ゆたせんせのとこがいい」

「あのな……。わかった、手ぇ空いたら俺も行ってやるから」

「……。ほんと?」

「あぁ。俺にも一応仕事ってもんがあんだよ」

「……。うん。わかった。みの、むこうでまってる。だからね、ゆたせんせ、ぜったい、はやくきてね」

「わかったわかった」

それでもまだ実は納得をしきってはいないのか、渋々といった様子で園児たちが各々遊んでるスペースへ歩いていった。