フィルター・1


空は青くて、太陽はギラギラと輝いている。

目を掠めて見上げると、そこはとても近い場所にも思えた。

手を上に伸ばしてみる。

何も無いそこを、強く握りしめた。



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宮元智也【みやもと・ともや】は都内にある障害者福祉施設に勤めるヘルパーだ。

年齢は32歳。

年齢よりも若く見え、尚且つ優しげな面持ちをしている。

身長は175cmと平均的で体つきも平均的なものではあったが、職業柄か腕はカッシリとしていた。

智也は元々ヘルパーをしていた訳ではない。

不況の煽りを受け、以前に勤めていた商事会社の大型リストラにあったのだ。

だが生来前向きで「人の為に」と働くことが好きな智也は、これを気に現在人手不足が騒がれる介護業界に入った。

やる気と学力に恵まれていた智也は最短でその資格を得る事が出来、ヘルパーを始めてすでに3年になる。

確かに商事会社に勤めていた頃よりも供与は減ったが、毎日が充実していた。

汚れ仕事もあるし、体力的にもキツイが、それ以上に人と人とのふれあいや、年長者から得る事も多く、自分の成長が感じられる。

正に「天職」ではないのかと思うこの頃だった。


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智也の職場は、身体障害者と知的障害者の収容施設で、住人である障害者がそこで生活と仕事をしている。

その手助けや介助をするのが智也の仕事だ。

「とーやしゃん」

「わっ、コウくん、こけるこける。」

「へへへ」

施設の庭にある花壇の前にしゃがみ花に水をやっていた智也を、後ろから羽交い絞めるように一人の男の子が抱きついて来た。

いや、年齢だけで言うならば26歳であるが故に十分青年なのだが、幼い容姿と仕草が「男の子」と表したい雰囲気なのだ。

その子の名前は宍戸幸喜【ししど・こうき】。

脳に障害があり、3歳児程度の知能しかない。

だがそうと知って尚人目を引く可愛らしい容姿の持ち主だ。

柔和な面持ちと、柔らかく色素の薄い髪、細すぎるほどに細い身体で身長は智也よりも頭一つ分小さい。

幸喜のいつもニコニコと楽しげに笑っている様が智也は好きだった。

背中に当たる体温を感じ、目を眇めて首だけで振り返る。

互いの顔が極間近にある為息がかかりそうで、智也は慌てて正面を向いた。

「とーやしゃん、何してる?」

「あのね、お花さんにお水をあげてるんだよ」

「おみずぅ?」

「そう、お水。コウくんもあげる?」

「あげる」

智也からパッと離れた幸喜は、横に並んでしゃがむと如雨露を受け取り嬉しそうに花に水をかけ始めた。

身体が離れると智也はホッと息を吐き、あたかもなんでもないとばかりの笑みを浮かべ、幸喜を見つめた。

「満遍なくかけるんだよ」

「まんべん、なく?」

幸喜は、「解らない」と首を捻って智也を見上げた。

「皆に同じくらいあげてね」

「はぁい、みんなおなじぃ」

端正な顔を無防備に歪めて笑う幸喜の頭を、智也はそっと撫でた。


 
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