フィルター・4



次の日から、何故か幸喜が沈みがちになった。

原因はわからなかったが、あれほど毎日笑っていたのに何をするにも俯いてオドオドしているのだ。

周囲の職員達は、仲間達は、気づいているのだろうか。

智也は心配でならなかった。

日々の幸喜を見ている限り、その原因に思い当たらない自分も情け無い。

逡巡した結果、当直の日眠る前の幸喜と話をする事にした。

「コウくん、お話、いいかな?」

「、、、うん」

智也は幸喜をベッドに座らせると、自分も同じ目線になるように膝をついた。

幸喜は座ると膝の上に両手を置き、ギュッと握り締めてそこを見つめる。

「コウくん、何か辛い事、あった?」

「辛い事?」

「うん、最近ね、悲しそうな顔をよくしているから、心配になったんだよ」

「、、、、、」

智也の言葉に、幸喜は益々俯いてしまった。

可愛そうなまでに肩が下がり、何も言わない。

しまったフォローに回らなければ、と思った矢先、幸喜は口を開いた。

「コウくんね、おかしいの」

「おかしい?」

「うん、あのね、とーやしゃんの事ね、考えると、ここが痛くなるの。」

そう言って手で示して見せたのは、自分の下肢部だった。

智也は言葉に出来ないほどに驚き、目を見張り固まってしまう。

それを、どのような意味に取っていいのか、すぐには答えが出せない。

「トモくんとかね、アイしゃんとかの事をね、考えても痛くならないのに、とーやしゃんだけ、痛くなるの」

やっとあげられた幸喜の面持ちは不安げで泣きそうなものだった。

こんなにもストレートな告白をされ、そんな潤んだ瞳で見つめられ、智也は我慢の限界に達してしまう。

両腕を伸ばし、その細い体を胸の中へ誘い込む。

腕の中で幸喜は、ビクンと震えた。

「僕もね、コウくんの事を考えた時だけ、ここが痛くなるよ。」

「本当?とーやしゃんも変なの?」

「違うよ。これはね、大好きだからなるんだよ」

「コウくんね、とーやしゃんの事大好きなの。とーやしゃんもコウくんの事好きなの?」

「そうだよ。世界で一番一番、大好きなんだよ。だからね、いっぱい触りたいし、一緒に痛いんだよ。」

「コウくんもね、とーやしゃんにね、いっぱい触られたいの。」

幸喜はそう言うと、縋るように智也を抱き返した。

智也の胸に、顔を押し付ける。

「あのね、コウくん、凄く嬉しいの」

「先生もね、凄く凄く嬉しいよ」

智也は、そっと幸喜をベッドへと押し倒していた。

頭の中で、「止めなければ」と警告音が鳴り響く。

こんな場所で、とも、本当に幸喜に意味が通じているのだろうか、とも思う。

だが智也は自分を止める事が出来なかった。

ずっと欲していた幸喜が、今は自分だけのものなのだ。

「嫌だったら、直ぐに言ってね」

幸喜はキョトンとして頷いたが、智也の唇が重ね合わされると、至極嬉しそうな笑みを浮かべた。

「嫌じゃないよ」

「そう、良かった」

手が、幸喜の頬をなぞり、服の上から胸の突起を撫でる。

「んっくすぐったい」

幸喜は身を捩り、くすくすと笑った。

智也の手は下へと降りて行き、幸喜の下肢部へと触れる。

そこはすでに硬くなっており、無性に嬉しくなった。

身体は正直だ。

もしも嫌悪感が勝るならば、こうにはならないだろう。

脳内の警告音を無視しそのスイッチを切ってしまうと、自分に言聞かせるようにそう思い、智也は恐る恐る幸喜のパジャマの中へ手を差し込んだ。

下着の中にも手を入れ、直接そこを握った。

「んっ」

甘ったるいとしか言いようのない幸喜の声が漏れる。

「あのね、コウくんすっごく、、、気持ちいい」

潤んだ瞳で見上げ、不安げに言った。

初めての感覚に怯えているのだろう。

「大丈夫だよ、怖い事はしない。嫌だったらすぐにやめる」

智也はそういうと幸喜の頬にキスをした。

一旦自身から手を離し、幸喜のズボンを膝まで降ろそうとする。

その時だった。

───ガラッ

「コウくん、これ渡すの忘れて──」

女性の職員が、ノックもなく部屋に入って来た。

室内の空気が張り詰める。

智也は頭が真っ白になり固まってしまった。

何が起こったのか、瞬時には理解出来ない。

蕩けた瞳をしていた幸喜は、ベッドに身体を沈めたまま、不思議そうに二人を交互に見つめた。

幾ばくかの沈黙を破り、女性職員の声が張り上げられる。

「なっ何してるんですか。誰かーっ」

それを智也は、他人事のように見ている。

「これで人生が終わった」とは思わなかった。

だが、こうして騒がれる事が幸喜を傷つける事になるのではないかと思っていた。

徐々に大きくなった女性職員の声が廊下に響き渡る。

智也は幸喜のズボンを直してやり、立ち上がると、小さく呟いた。

「ごめん、コウくん」

それに対する幸喜の答えがあったのかすら、智也は解らなかった。


   
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