フィルター・5



あの後、何が起こったのかはっきりと覚えていない。

数々の罵声を浴びせられた気がするが、あまり記憶には無かった。

大方クビになるだろうが、とりあえずは自宅謹慎を命じられた。

オーナーの意見を仰ぐとの事らしい。

智也は反論一つする事無く従った。

幸喜を見るのも辛くて、一度も視線をやらなかった。

幸喜はどうしているだろう。

不安げに見つめる視線だけが、智也の脳裏から消えてくれなかった。

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謹慎処分を命じられて数日がたった。

施設の方も公にしたくはないそうで、警察への届出はされなかった。

今回が初めてだ、という智也の言葉を信じたのは上辺だけだろう。

「何も解っていないから」と、幸喜の気持ちを後回しに考えているのは、智也ではなく施設の方ではないだろうか。

そうは思っても、智也はそれを口にしようとは到底思わない。

警察に捕まる事もなく、免許を取り上げられる事もなかったが、智也はもうぺルパーを続ける気はなかった。

相手が男なら、または障害者なら誰でもいい、SEXがしたい。

そんな陳腐な感情で幸喜を抱こうと思ったわけじゃない。

幸喜が幸喜であるから、愛しているからその身体を欲してしまったのだ。

だから他の施設に行ったとしても、そこで同じ過ちを繰り返す可能性は低かった。

だがそれでも同じ職についている限り、幸喜の事を忘れる事は出来ないだろう。

そう思うと、智也には「ヘルパーをやめる」という選択肢しかなかったのだ。


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智也の気持ちが上向く事はない。

日永一日を部屋の中でボーッと座り、過ごした。

食事をする事も忘れる程だったが、「幸喜はどうしているだろう」という想いが智也から離れる事はなかった。

何事もなく過ごしているだろうか。

それとも、やはりトラウマになっているのだろうか。

あの出来事は、幸喜に取って辛いものだったのだろうか。

「謝りたい」

本当に幸喜が辛いと思っていたなら、智也は謝りたかった。

本当に、心の底から愛している。

だからこそ、傷つけたのならば真摯に気持ちを伝えたい。

そう思うと、智也は家を飛び出していた。


   
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