人生の門出・編・7



弾む気持ちは身体も軽くなり、気を抜けば顔の筋肉も緩んでしまいそうだったが、持ち前のプライドの高さでなんとか表面上は「何でもない」と取り繕う事が出来た。

けれど身体は飢えたように幸田を欲し、繋ぎ合わせた手を離す事も出来ず、車に乗り込んだ後は運転中だとしても可能な限り、白く細いそしてあの指輪が光る幸田の手を握らずにはいられない。

「あれ?こっちは横浜方面ですよ?」

「あぁ、そうだな。」

「東京はあっちですよ?」

車窓に流れてゆく風景を振り返り眺めた幸田は、三城に向き直ると不思議そうに反対側を指差す。

「そんな事は解っている。」

「帰らないんですか?」

「あぁ。」

素っ気無く、いっそつっけんどんに言った三城は片手で、けれどミスの一つも無いハンドル裁きで目的地に急ぐ。

山道などとっくに過ぎ去り、田舎から都心部へと抜け、高層ビルが立ち並ぶ一体に出る。

東京と大差の無いような賑わいを見せる繁華街は良く見覚えがあり、それというのもクリスマスに来ているのだから当然だ。

指輪を贈った横浜のシティーホテルが目的地で、ホテル手前の角を曲がった辺りで幸田もそれに気がついたのか、小さく声を上げると頭上に聳える高層タワーを見つめた。

「あ・・・ここ。」

「そうだ。覚えているか?」

「当たり前です。だって、ここは・・・」

クリスマスの日の出来事を思い出しているのだろうか、右側の助手席に座る幸田がほんのりと頬を染めた。

三城が今日ここを選んだ理由と同じ様に、幸田もまたこの場所を特別に感じてくれたいたようで無性に嬉しい。

車はホテルの地下駐車場に入り、無駄の無い動きで車体が駐車スペースに納まる。

エンジンを止めた三城は繋いでいた手をあっさりと離し、車から降るとさっさと地上へ上がるエレベーターへ歩き出した。

「行くぞ。」

「あ、春海さんー待ってください。」

待てなど出来ない。

これ以上幸田に触れていたら、さすがに自分を抑えられる自信が持てない。

一刻も早く二人きりになりたい、と内心は煮えたぎる熱を抱えているというのに、すました面持ちの三城からは想像もつかないだろう。

手早くチェックインを終わらせ、客室に向かう。

さすが高級ホテルのスタッフは迅速丁寧で、事前に予約をしていた三城へルームキーを渡すまでそれほど時間はかからなかったが、残念ながら今の三城にはそんな事は何一つ記憶に残っていなかった。

逸る気持ちだけが全てで、「早く」という言葉以外は出て来ない。

客室階に上がり目的の部屋を探し、すぐに見つけるとカードキーを滑らせる。

扉を開け性急な動作で部屋に幸田を押し込み、オートロックの鍵が掛かる音が鳴り終わるよりも早く、その唇は三城によって奪われていた。

「んっ・・・」

あまりに急激だったので驚いた幸田が苦しげな声を上げたが、それも一瞬の事だ。

すぐに三城の背中に両腕を回し、縋りつき求めた。

幸田の腕が背中を這う。

唇を押し付けあう感覚や、舌先を絡め合わせる敏感な刺激。

たったそれだけで三城の雄は呆れるほどに熱を持ち、無意識の内にそれを幸田の腰に擦り付ける。

「くっ」

逃げるかとも思ったが、意外な事に幸田の片手が三城の太ももを撫で上げ、張り詰めるズボンの上からそっと滾る雄に触れた。

突然のいやらしい手つきに三城はビクリと震える。

先に唇を離したのは幸田の方で、流れるような動作でその場にしゃがむと三城のベルトを外し始めた。

「止めろ。そんな事を今しなくてもいい。」

「ダメですか?僕はしたいんです。」

眼下の幸田の瞳は潤んでおり、返事を返すよりも早く三城のスラックスのフロントを寛げると下着を下げ、存在を主張するペニスをそっと取り出した。

上目遣いで見上げる表情の淫靡さに、三城は言葉も出ない。

「くっ・・・」

先端を指先でなぞられれば腰は震え、屈辱的にも思える恰好ながら制止出来ずにいる。

「ダメ、ですか?」

「ダメ、だ。ベッドに行くぞ。」

最後の理性を振り絞り幸田の手から自身を離させると、中途半端に降ろされていた下着を元の位置まで引き上げ、幸田の腕を掴み早足でベッドルームへと急いだ。

三城がキングサイズのベッドサイドに腰を降ろし幸田の腕を離すと、幸田は何も言わずに三城の足元に座り込み、今度はスラックスごと下着も下げようとしたので三城は諦めて腰を浮かせそれを手伝った。

下着とスラックスが膝まで下ろされる。

幸田のため息が聞こえたかと思うと、粘膜の熱い感覚がペニスを襲った。

豪根と表すに相応しい三城のペニスを、幸田は口いっぱいに広がるそれに涙目になりながらもしゃぶり付く。

「んっんっ・・・」

「くっ・・おい、無理は・・するな」

正直、三城は口淫を受けた経験が少ない。

過去に関係を持った女性は皆一様にやりたがらなかったし、幸田が初めてだとまでは言わないものの、その行為をさせる事自体いまだにどこか罪悪感を覚えてしまう。

自分が幸田のペニスを口で愛撫する事になんの抵抗もないのだが、逆となると気後れがしてしまうのは三城のペニスを咥える幸田の表情が苦しげに見えるからだろうか。

口に入りきらない程の竿を口内に含み、余った部分は手で扱きながら先端を舌で擦る。

咽たような声を上げたかと思うと口から離し、睾丸を握り裏筋を舐め上げられた。

「くっ・・・」

見下ろした先、自分の股間に顔を埋める幸田の髪をくしゃりと撫でた。

鳥肌が立つような快感。

身体に受ける刺激ももちろん強くはあったが、それ以上にこのシュチュエーションに興奮を覚え、三城は早々に絶頂へと駆け上る。

「やめっろ・・・離せ・・・」

このままでは幸田の口内で果ててしまう。

精液を嚥下する事も、自分は一つも嫌ではないというのにそれが受ける側となるとまた別だった。

幸田の肩を押して離そうとするも、咥えたまま首を左右に振った幸田は三城のペニスを離そうとはせず、それどころか出来る限り深く咥えると強く吸い上げる。

「っ・・くっぁっ・・・」

我慢をするしないというレベルは超えてしまい、座ったまま後ろ手に身体を支え僅かに喉を反らすと、三城はあっけなく幸田の口内に性を放った。

「んっ・・・・っ。」

決して旨いとは言いがたいだろうに三城の放ったものを飲んだ幸田は、だが一度に飲みきれなかった白濁が唾液と混ざった薄い色になり、唇の端から一筋流れた。

「馬鹿かお前は・・・こんな事を、しなくても・・・」

幸田の口角から流れ落ちた雫を三城は指先で拭い取る。

欲に潤んだ幸田の瞳は反則だ。

「でも・・春海さんはいつもしてくれます。僕だって、春海さんに、したいです。」

「・・・・恭一。」

「僕だって、春海さんが好きで、何より一番好きなのに・・・」

幸田の髪をそっと掬い取る。

必死に言葉を並べる様子が愛しくて、幸田の脇に手を入れ抱き上げると三城の足を跨ぎ向かい合うように膝に座らせた。

「わっ・・・」

「すまない、悪かった。嫌なんかじゃないんだ。ただ慣れていないだけで、お前が無理をしているんじゃないかと、本当は苦痛に感じているんじゃないかと思っていたんだ。」

「そんな事ないです。でも・・・その・・・僕も我慢が出来なくなりました・・・」

三城は幸田の頬を撫で、チュッと音を立ててキスをする。

「これだけ散々に煽ったのはお前なんだ。覚悟は出来ているんだろうな?」

ニヤリと笑った三城は、鋭い声で甘く囁いたのだった。



 
*目次*