君と僕と・15


「アス、お久しぶりです。この度はご愁傷様でした」

「、、、、いえ、それはフィン様に仰ってください」

ニルは聞いた事がないくらい冷たい口調で言ったし、アスと呼ばれた男の人は酷く沈んだ声だった。

暗いボソボソとした声だったからはっきりとはわからないけど、ニルと同じくらいの年齢かな、と思う。

「それで、その子ですか?」

アスは言った。

たぶん僕の事だろう。

「ええ、今までは僕が世話をしていましたが、主人様が彼方に、と」

「心遣いいたみ入ります」

「それは主人様に仰ってください」

僕には二人の会話が理解出来なかったけど、これで僕は何かの役に立てるのかもしれない、と少しだけ期待をした。

ここに来てから、僕は何もしていない。

世話をしてもらうだけで、大人しく世話をされる以外に僕に望まれる事はないのではないかと考え始めていた。

でも、それがニルの望みなら叶えたかったし、このアスという人もそうならそうするけれど、違えばいいな、と思う。

「上手にお世話できるか解らないけど、よろしくね」

不意にニルと手を繋いでいない方の手を知らない手が触れた。

それがアスの手なのだろう。

とても冷たくて、ニルよりも少しだけガサガサしていた。

触れられながら言われた言葉は、ニルと話している時よりも明るい声に感じられて安心した。

ニルの手が僕から離れて行く。

追いかけたい衝動にかられたけど、追いかけてはいけないのだろう。

代わりにアスの手が僕の手をしっかりと握った。

今から僕の主人はアスなのだから。

「では、先に失礼します」

ニルが部屋を出て行く。

扉が閉まる音が妙に響く。

アスは片方づつ両手を握って、ゆっくりとした口調で話し始めた。

「初めまして。私はアスです。今日から彼方のお世話をする事になりました。何でも我慢しないでくださいね」

僕は反射的に頷いたけど、それは心からの了承なんかじゃない。

ニルは最後まで約束を守ろうとしてくれたけど、僕は同じ様に約束を守れそうにない。

だって、我慢をしない方法を知らないから。

   
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