君と僕と・3


ギッっと錆びた音がして僕の部屋の扉が開き、僕は目を覚ました。

「この子か?」

初めて聞く声だ。

何て綺麗な声だろう。

今まで聞いたどの男の人よりも深みのある、印象的な低い声だった。

「ええ、3日前のショーに出ていた子はこの子が最後です。」

聞き覚えのある声がしたが、僕に話しかける時とは全くちがう猫撫で声だ。

今までの経験で、この綺麗な声の男が偉い人だと知る。

「おい、ニル。この子でいいのか?」

綺麗な声の男は、また別の人に言う。

「はい、主人様、この子です。お願いです、この子を買ってください。僕はなんでもします。」

必死な口調だった。

その新しい声も綺麗な男の人の声だったけれど、さっきの綺麗な声の人よりずっと高かい。

鈴の音のような印象を受ける。

「確かに似ているな。この子がお前に飼われても良いと言うなら、買ってやる」

綺麗な声は冷たい口調で言った。

この店ではたまに「カワレテ」外に出て行く人が居ると聞いた事がある。

僕には今までそんな誘いが来なかったけれど、今がそれなのだろう。

ずっとここで育った僕は外の世界を知らなくて、そこが楽しい所なのかここより辛い所なのか想像もつかない。

カッカッと靴を鳴らして一人が近づいて来た。

目の前に座る気配を感じ、そして自分の膝を抱く僕の手に手を置いた。

「僕と一緒に来ませんか?もう辛い思いもさせないし、出来る限り大切にしてあげるから」

鈴の音の声の人だ。

とても真剣な口調だった。

色々と聞きたい事はある。

何処に連れていかれるのか、とか、ここより寒くないのか、とか、彼方は誰なのか、とか。

けれど僕にはそれを聞く声を持たないから、とりあえず冷たいつま先から逃れたい一心で、僕の手を握るツルツルの細い手を握り返して頷いた。


   
君と僕と・TOP