カウンター・3万ヒット記念



店名のFall Dominionが示す通り、ここはこの男、秋人の領土だ。

「いらっしゃいませ。」

薄暗い店内。

カウベルを鳴らしながら入店すると、まだ一人として客の居ないバーのカウンターにその男は居た。

細面の顔に良く似合いの眼鏡。

黒い髪は後ろに撫で付けられ、薄ら笑みを浮かべている。

一見優しげに見えるその面持ちだが、よく見れば見るほど鋭利さが伝わってくる。

真面目そうでいて軽い。

飄々としていて掴めない。

冷たそうで熱い。

この男を表す最も適した言葉など、誰も──本人すらも解らないのかもしれない。

「どうしました?えぇ、今夜の一番客は貴方ですよ。」

秋人は唇を上げて薄く笑むと、頼む前から水割りを一杯差し出した。

いつの間に用意したのか、さきほどまで何も無かったカウンターの上にはキープボトルとグラスセットが置かれている。

「良い事あった、って顔ですね。そりゃぁ解りますよ、いつも貴方を見ていますから。セールストークだなんて、酷いな。」

秋人はクスクスと楽しげに笑ったが、瓶ビールの小瓶を取り出すと何も言わず妖艶な笑みを浮かべてみせた。

それこそセールス用だとは解っていても無下に出来ない、いやセールスであってもこの表情を見れた事に感謝したい美しさだ。

そして秋人はそれを十分に理解しているのだろう。

「・・・ありがとうございます。それで、何があったのかお伺いしてもよろしいですか?」

機嫌よさげに小さなグラスにビールを注ぎながらも、秋人は手元を見る事もなく、こちらと視線を全く外さない。

ころころと変わる、そしてそのどれも美麗な笑みが秋人の魅力だろう。

「・・・へぇ、そうなんですか。入場者数が、ね。それはそれはおめでとうございます。では、私からもお祝いに・・・」

秋人は身を屈め、カウンターの下からガラスの皿に乗った赤い果実を取り出した。

「特別な貴方に差し上げます。柘榴はお好きですか?」

その後の事はよく覚えていない。

だが目覚めた時、自分の中の何かが変わっていた。

そんな気がしてならない。



*あとがき*


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