クライン×北原・18


*注意*『』内のセリフは英語です。

胸ポケットをやけに意識してしまう。

そこに眠るのは、先程クラインから渡された「プレゼント」、彼の新居のスペアキーであった。

某有名ブランドのキーホルダーが存在感を主張するそれを、クラインは北原の手に握らせたのである。

「いつでも、毎日でも来てほしい。ここを自分の場所だと思える程に」

その時のクラインの笑みがあまりに柔らかくて。

何度も無意識にそこへ触れては、緩んでしまう頬を押さえる事が出来なかった。

彼の家の自分の場所。

これからは仕事面で共に過ごせなくなるけれど、これならば安心かもしれない。

クラインが雇うという専門の秘書が男であれ女であれ、北原にとっては不安材料であった。

以前まで自分が居たポジションに他の誰かが納まる。

仕事故に仕方が無いとはいえ、あれ程毎日の長い時間を共にし、そしてクラインの美貌を思えばその不安は妥当なものだろう。

その上、彼はゲイではなくバイなのだとも知っていた。

『ナオヤ、このカップを二つ買おう。スプーンとフォークはどちらが良いだろうか?』

『僕は別に何でも・・・でも、青よりも緑の方が好きです』

『ではこちらにしよう』

どれも二つづつ。

揃いであったり色違いであったり、こんな若いカップルのような行為を恥ずかしいと思いながらも、北原もまんざらではなかった。

『そうだ、箸も買わなくては。日本の家庭では何でも箸で食べると聞いた。ハンバーグもパスタも』

『・・・それは何処の情報ですか?』

『何かの情報誌だっただろうか・・・ナオヤ、こんな物がある。これにしよう』

声を弾ませながら振り返るクラインが手にしている物を見て、北原は眉を寄せた。

『レイズ、それ読めているのですか?』

『あぁ、もちろんだ「メオト・バシ」だろ?このシリーズは他にもあるんだね。湯のみに茶碗に・・・』

『・・・別に、使えたら僕は何だって構いませんが・・・』

───凄く、長い時間が飛び去った気がする。

けれど実際はたった一週間にも満たなくて、その間に色々な事柄が変わっっていった。

嫌々だったクラインの「接待」。

好きだと錯覚していた人の不在と、彼のパートナーに対する嫉妬心。

クラインを無表情・無感情な人だとも思っていた筈なのに、今は違う。

彼は、とても綺麗な笑みを浮かべる人なのだ。

『ナオヤ、この漆というのはナオヤの瞳の色と似ている』

『・・・外で、止めてください。そんな・・・』

『英語だから構わないだろう?それともフランス語にでも?』

北原の瞳を漆と例えるならば、悪戯っぽく蒼い瞳を輝かせる彼は海か大空か。

ずっと見ていたいと思った、隣で、その笑みを。


【完】



*あとがき*
*目次*