三城×幸田・クリスマス編・10



「我ながら子供っぽいと思うよ」

場所を改めようと訪れたホテル中層のバーで、カクテルグラスを片手に三城は笑った。

薄暗い店内が三城を饒舌にさせたのか、先ほどまでの苛立ちが嘘のような柔らかい口調だ。

冗談半分でさせた女装が思った以上に可愛く、そんな幸田が(無意識になのだが)誰彼なく愛想を振りまく事に苛立ちを覚えたのだと言う。

全ては自分の我侭だと解っていても抑えれず、あげく泣かせそうになってしまったと三城は真摯に謝った。

相変わらず喋る事に躊躇する幸田は「大丈夫だ」と首を横に振り、三城のスーツの袖口をキュッと握ってニッコリと笑んで見せる。

何がどう、とは言えないが、胸が熱くなった。

嬉しいという一言とはまた違う、なんとも不思議な感覚だ。

目頭が熱くなるのを感じ、女装は普段の自分を隠せると言うが、いつになく涙もろい自分を叱咤し苦笑を浮かべる。

頼んだまま手をつけていなかったカクテルをクッと一気に飲み干す。

空になったグラスをカウンターに置くと、それが合図だったように三城が立ち上がった。

「行こうか」

頷き返すと幸田も立ち上がり、お互いに一杯づつしか飲まなかった店を早々に後にする。

話をして打って変わった三城は会計を済ませても先に出て行く事はせず、傍らに立つ幸田の腰を抱き寄せた。

馴れない事に対する照れはあったが、嫌な気持ちではない。

そっと三城に寄り添いながら俯き加減で店外へと向かった。

カラン

品の良いほどに小さなカウベルの音を立てた扉が、幸田の背で閉まる。

「部屋を取ってある。」

どこか期待と予測をしていたのだろう。

その言葉に驚く事はなく、耳元で囁かれた甘い三城の声に幸田はまた黙ったまま頷いた。

エレベーターに向かうため再び歩き出した二人に、幸田の知らぬ声がかけられた。

「、、、部長?」

三城が振り返った気配がし、つられて幸田も振り返る。

そこに居たのは、ビシッとスーツが決まり隙の無い風格の50代の男性だった。

口元は笑っているのに瞳はまるで笑っていない鋭い眼光で、その取り繕った笑みに幸田は気味の悪さを感じた。

「信田さん。奇遇ですね」

三城もまた、幸田の知らない表面的な笑顔と丁寧な口調で答える。

本当にこんな場所で知人に会うとは思っていなかったのだろう。

余裕を装ってはいても、三城の驚きは感じ取れた。

「ほぉ、こちらが噂の恋人ですか。」

意地悪なまでに甘い声で信田と呼ばれた男は言い、値踏みをするように幸田を上から下までジロジロと眺める。

居た堪れなさから逃げ出したくもなったが、三城を思いやってはそんな事も出来ない。

その上信田はあまり三城を快く思っていないようだ。

そんな人に弱みを見せるのも癪だった。

いつになく幸田は好戦的に考え、これも女装のせいかと内心苦笑しざるをえない。

幸田は意を決し顔を上げると、信田に向かいニッコリと微笑んで見せた。

「、、、」

年の功と言うべきか、信田は何の反応も見せなかった。

「ええ、どんな噂かは知りませんが。」

社交的な口調で三城は言い、幸田の腰を抱き寄せる。

「では、また来週会社で」

もう話す事は無いとばかりに言い切った三城は、幸田の腰を抱いたまま歩き出した。

いきなり歩き出すので幸田は足が縺れそうになったがなんとか持ちこたえ、慌てて信田に向け会釈をした。

いくら相手に良い雰囲気を感じなかったとはいえ、初対面の年長者を疎かに出来るほど粗暴な性格はしていない。

「なんでこんな日にこんなところで」

ため息交じりの三城の独り言が頭の上で聞こえた。



 
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