三城×幸田・クリスマス・編・11



先ほどの男性は信田という名で部下なのだと、部屋へ上がるエレベーターの中で三城は口を開いた。

一年ほど前前部長が海外へ栄転になり、空席になった部長ポストを巡った社内抗争のようなものが起こったという。

その時部長候補として最有力だったのが信田で、本人もまんざらでなかったらしい。

だが、幸田の知る通りその地位を得たのは三城だ。

それだけに、未だに三城に対する態度は厳しい物で好戦的ですらあるらしい。

「若いのは確かだからな。だが、青二才と呼ばせるつもりはない」

ちょうど目的の階につき、幸田の腰を抱いた三城がエレベータを降りながら強気の笑みを浮かべた。

幸田は三城の余りある自信家な所が好きだった。

どうしても自分がそう成れないからだろうか。

惚れ惚れとその数センチ上の顔を見上げると、ふと微かな疑問を思い出した。

「そういえば、『噂の恋人』って何ですか?」

信田が口にした言葉だ。

幸田としては、信田自身よりもその言葉の方が気になっていた。

「、、、いや、ちょっとな」

三城の自信に満ちた笑みが一瞬にして失せ、眉間にシワを寄せながら視線を彷徨わせた。

何かやましい事でもあるのだろうか。

不思議そうに見上げる幸田をよそに、三城は客室の一つの前で立ち止るとポケットからキーを取り出し開錠して中へと入った。

幸田も促されるがままに中へと進む。

「、、、わぁ、、、」

入って真正面にパノラマの夜景が広がっていた。

美しい夜景が一望出来、部屋もとても広い。

夕方呼び出された部屋とは比べ物にならない内装だし、いつか三城の会社の前で待ち伏せしていた後につれて来られた部屋以上だろう。

そうえいば、夕方のあの部屋はどうしたのだろ。

もしやあの為だけに借りたのだろうか。

「まさか」と思う反面、三城ならやりかねないと思い、クスリと微笑が漏れた。

「どうした?」

窓辺に立ち、夜景を見入っていた幸田を三城が後ろから抱きすくめる。

耳元で囁く声は酷く甘い。

「気になるのか?」

「何がですか?」

絶景の夜景を前に、幸田は先の質問の答えを貰っていない事を忘れていた。

気になる事は沢山あるが何から聞けば良いのかわからないと、主語の無い三城の言葉にキョトンとしながら振り返り見つめる。

ハラリと肩から髪が流れ落ちた。

それが合図だたかのように、唇が重ね合う。

我慢していたとばかりに、三城は幸田の口内を荒らした。

「ん、、、」

散々に暴れまわった舌が幸田から離れていったのは、首を捻っていた幸田が辛いと眉間にシワを寄せてからだった。

「すまない。あまりに可愛かったから」

唇を離しても腕は離さず、幸田を後ろから抱きしめたまま三城は悪びれもせずに言った。

「、、、可愛くなんて、ないです。」

「可愛いよ。誰より、な。」

拗ねたように呟く幸田に、三城は尚も甘く囁いた。

普段なら三城の言葉を照れながらも素直に受け取る幸田も、今回ばかりはある疑問から逃れる事が出来ず、首を振って否定した。

「それは、、、こんな格好をしているからですか?」

振り返り三城を見る事が出来ない。

はっきりと言う事も出来ず、湾曲な言い方になってしまう自分が情け無かった。

伏せた視線で意味も無く足元を見つめる。

抱きしめられた腕の力が緩まない事だけを頼りに、三城が返事を返すまでの数秒だか数分だか解らない時間を、とても長く感じながら待った。


 
*目次*