三城×幸田・クリスマス・編・14



今日がクリスマスだった事を思い出したのは、目覚めた時に違和感を感じたからだ。

それは感覚的なものではなく、しっかりとした体感的なものだ。

深夜も早朝と呼んでいい時間に幸田は目を覚ました。

二人が共に眠る時のお約束のように、幸田は三城に後ろから抱きしめられている。

腕ごと抱きしめられている時もあるが、今日は胴だけを抱かれているので腕は自由だ。

ぼんやりとする目を手の甲で擦った時、その違和感を感じた。

指に、何かがある。

指と指の間に何かが挟まったような気がして、覚めきっていない目の前に手を翳した。

「、、、、、」

「それ」が「指輪」である事に気づくまで、驚くほどの時間がかかった。

「、、、っ!」

気がつくと、勢い良く三城の腕を振り払い、ガバリと起き上がる。

カーテンは閉じ照明の点いていない部屋では満足に物を眺める事も出来ず、幸田は転がるようにベッドから降りると部屋を出た。

とりあえず何処でもいいから電気の点く場所を、と思い辿りついたのがトイレとは情け無い。

ホテルというものに馴れない幸田には、メインの部屋の照明スイッチの場所が解らなかったのだ。

トイレといってもパウダールームもセットになったような、2畳もありそうな程に広い。

そこに入り、扉を開けっ放しのまま電気をつけると、マジマジと自分の指を眺めた。

どこからどう見ても指輪だ。

一連の極シンプルな物で、色はシルバー。

素材は(たぶんだが)プラチナだろう。

彫りも飾りも何一つないが、その輝き自体が十分な高級感に溢れている。

そして、填められていた指は━━━

「いいのかな、ここで、、、」

「他に無いだろ?」

ボソリと呟いた独り言に対し、後ろから思いがけない(と言うほどでもないが)声がかかった。

予想外の出来事にビクリと肩を震わせて振り返る。

「、、、三城さん。起きてたんですか。」

気恥ずかしさから俯く幸田に、三城はゆっくりと近づいた。

寝乱れた様子も見せず、きっちりと身に纏ったバスローブからは色香すら漂う。

「そりゃ、あれだけ勢いよく腕を放られたらな」

「あぁ、、そうですね」

どちらともなく、楽しげな苦笑が漏れる。

顔を上げて目の前の三城を見上げた幸田はニコリと笑ったが、三城とは対照的に、帯が結ばれているだけで前が殆ど肌蹴ている自分の姿にようやく気がついた。

慌てて胸の前を掻き合わせる。

「いいだろ、見せてくれても」

三城の腕が幸田の腰に回り、そのまま引き寄せると下肢をぶつけ合う。

「っやめ、てください。今は、、、。その、これ」

下肢に当たる三城の雄雄しさに赤面し、しどろもどろになりながらも幸田は左の手を三城に示した。

「クリスマスプレゼントだ。迷惑か?」

余裕の笑みというのだろう。

心にもなさそうな言葉を口にしながら、尚も身体を密着させ続けた。

「迷惑なわけじゃっ!、、、でも」

「でも?」

「ここで、、、いいんですか?」

右手で、左の指輪が填っている指を指す。

息がかかりそうな距離に居る三城の顔が、相変わらずの笑みでニヤリと口角を上げた。

「お前は本当に真面目だな。今時中学生だってペアリングはソコだぞ?」

「そんな事言ったって、、、」

中学生と自分は違うのだと反論の声をあげそうになる。

自分が大人だからこそ、深く考えてしまうのだ。

三城にとって、いくら高価な物でも、大した意味は無いという事なのだろうか。

「恭一、ほら」

幸田の指から指輪を引き抜いた三城は、リングの内側を見えるように目の前に翳した。

【my wife】

「、、、、」

「読めないのか?」

予備校講師をする幸田がそんな訳はないと解っているだろうに、三城は意地悪く言った。

「読めます、、、けど。、、これって、、、、」

冗談なのか、本気なのか。

いつもの如く三城の真意が読めない。

「男同士は結婚の代わりに養子縁組らしいが、嫌なんだよ。親子関係だろ?だからこれで勘弁してくれ。」

「え?」

「愛してる。ずっと、俺の側に居てほしい。」

指輪が素早く幸田の薬指に戻される。

空になった三城の両腕が幸田を強く抱きしめた。

真面目で、真剣な声だ。

真摯な気持ちが痛いほどに伝わってくる。

ここがトイレであるなんて忘れてしまうほど、辺りはキラキラと輝いていた。

それは錯覚か、瞼に浮ぶ涙が照明に反射したせいか。

「、、、、はい、僕もです」

涙がハラリと頬を伝い落ちる。

抱きしめ返した三城の背中で握り締めた手の平の中で、【my wife】━━━【俺の嫁】と書かれた指輪が存在感を主張した。



【完】
+あとがき+

*目次*