三城×幸田・クリスマス・編・4



「汚れたら困るし、服脱いで?」

「は?」

椎名の言葉に、いまだ状況が掴めていない幸田は驚きの声をあげた。

男同士故普段なら裸を見せるくらい何でもないのだろうが、自分はゲイで相手もカマ口調ときてる。

そのうえここはホテルの一室で、ベッドの端に座らされている事を考えると、「服を脱ぐ」という行為を戸惑っても仕方ないというものだ。

「なぁによ、脱がして欲しいわけ?ウブね。」

からかうような口調でクスクス笑いながら言う椎名は、幸田から離れると大きな鞄を手にして戻って来た。

鞄というより箱と言った方がしっくりくる、縦にも横にも大きいハードケースだ。

自然とそれを目線で追っていた幸田だったが、一向に脱がない幸田にじれた椎名の手によりネクタイを解かれそうになり我に返った。

「自分で脱ぎますっ」

「そう?助かるわ。上だけでいいからね。」

「上だけでいいんですか?」

服を脱ぐと言われ、全てを脱ぐものだと思っていた幸田は不思議そうに首を傾げた。

「あら?全部脱ぎたいの?」

「違います!!」

どうしてこの人は神経を逆撫でするような事ばかり言うのだろう。

叫ぶように言いながら、幸田はジャケットとネクタイとシャツを脱ぎ、上半身だけ裸になった。

自分は何をしているんだろう、と思わなくもないが、抵抗するにも疲れる相手だ。

暫くの間は様子を見て大人しくしておこうと、瞳を伏せてため息を吐いた。

「はぁ、、、、っ何ですかっ!?」

だがその決意は脆くも崩れ去る。

瞼を閉じていた幸田の頬に、何かが触れたのだ。

触れた、というより、「塗られた」といった感じだ。

慌ててそこに触れ、それが何なのかを確かめようとしたが、頬に伸ばした手の手首を椎名に掴まれて阻まれた。

「触っちゃだめよ。大人しくしててね」

「何するんですか?」

「綺麗にしてあげるだけよ。はいはい、じっとしててね」

相変わらずはぐらかすような椎名の答えに、当然ながら幸田は納得できなかったが、椎名の手が幸田の肩に置かれて立ち上がる事も出来ず、シュッと顔面にミスト状の何かを吹きかけられては、口を閉ざすしかなかった。

「んっ」

一旦隙を見せてしまえば、その後は椎名のペースだった。

「目を閉じて」「口を開けて」などの要求にも大人しく応えてしまったのは、椎名の声が次第に真剣なものへと変わっていったからだろうか。

それと伴い、生まれて初めての経験故なかなか解らなかったが、自分がされている事が「メイク」だと徐々に気がついた。

先ほどの大きな箱はメイクボックスというやつか。

自分がメイクなんてしても気持ち悪いだけだろうと思ったが、椎名にそれを言う勇気はない。

これから三城とデートなのにどうしようと考え、そういえば此処に居る事は三城の指示だったとようやく思考が繋がった。

だとすれば、これすらも三城の指示だったというわけで。

女装(なのだろう)は三城の希望というわけか。

なんとなく面白くない気分になり、胸がコトリと悲しく鳴る。

だがその沈みそうな気分も椎名の言葉で吹き飛んで行ってしまった。

「さぁ、次はコレ着て頂戴」

髪を弄られていたのだが、終えたのか前に回ってきた椎名をハッとして見上げる。

ニコニコしながら傍らに置かれた紙袋から取り出されたのは、なんとワンピースだった。

薄いピンクと白の、上品ながらに可愛らしい物だ。

こんなのが三城の趣味か、と思いながら何気なく手に取ってしまう。

じっとそれを眺め、「何故、三城の趣味の服がここにあるのか」と考えた時、

「、、、って、コレ僕が着るんですか!?」

やたらと繋がりの遅い思考がやっと理解に至り、驚きから目を見開いて大声をあげながら椎名を見つめた。

「最初からそう言ってるでしょぉ?他に誰が着るのよぉ?」

唇を尖らせる椎名に腕を引かれ、強制的に立ち上がらせられた。

並んで立つと椎名の方が幸田よりも僅かに背が高い。

「やっぱり脱がしてほしいのかしら?」

先ほどと同じ不毛なやり取りが繰り広げられそうになり、幸田は諦めてため息を吐いた。

「、、、自分で着ます」

「それは助かるわ」

メイクをしていた時の真剣な口調はどこへやら、軽く人をくったように答える椎名に内心憤りを感じながらも、目の前でニッコリと微笑む顔が作ったように綺麗だったため、それすらも諦めてしまったのだった。



 
*目次*