三城×幸田・クリスマス・編・6



軽いパニックの連続だった幸田は、「諦めて流れに乗る」という選択肢を取った。

いや、取ろうと覚悟を決めた。

「シーナ、ありがとう。上出来だ。」

「私を誰だと思ってるの?当然だわ」

冗談交じりに笑いながら話す二人を、何処か遠くから見ているような気分で眺めていた幸田は、深いため息を吐いた。

相変わらず聞きたい事は沢山あったが、何から質問していいのか解らない。

幸田の腰に回る三城の腕の力だけが、今を現実だと思い知らしてくれる。

「さぁ、行くか」

今まで椎名と話していた三城が、不意打ちのように幸田に向けて言った。

やはり幸田の思考は、まだ回りが遅いらしく三城の言葉の意味を理解するまでに数秒を要してしまう。

「、、、えぇっ!行くってこのままですか!?」

流れに乗ろう、と決めたのは今の事だというのに。

予想してはいたが考えたくも無かった事に、つい声を荒げてしまった。

「当たり前だろう?何の為にそんな格好をさせたと思っている?」

「他に何があるのよぉ。私の努力を無駄にするわけぇ?」

しっかりと聞き取れない程重なった二人の声に幸田はたじろぐしかない。

三城は鋭い声だし、椎名はあからさまに不愉快そうだ。

何も間違った事を言っているつもりはないのに、2対1では分が悪く、何処か自分が酷く我侭な気がしてくる。

「でも、、、こんな格好で出たらただの笑い者で、、、」

「何処から見ても女だ。」

「私の作品を『こんな』呼ばわりするなんていい度胸ね!」

言っている事はバラバラなのに、二人は驚く程同時に声を発するのでやはり聞き取り辛い。

「さぁ、行くぞ。今日は恭子とでも呼んでやろうか?」

幸田の精一杯の反論は、あえなく不敗で幕を閉じた。

勝者である三城はやたらと楽しそうだ。

貴重品は靴などと一緒に渡されたハンドバック(これも同じブランドの物だ)に入れてくれているらしいのだが、残して来たスーツや鞄が気になる。

持って行くべきではないのかと振り返ったが、椎名が笑顔で手を振るばかりだ。

エールを送ってくれているのだろう、その行動にも幸田のため息を誘う。

力強く自分の方へと引き寄せる三城の腕により、半ば引き摺られる格好で幸田は客室を出た。

元よりも自分の容姿に自信があるわけでもないのだが、二人がなんと言おうと今の自分に自信など持てない。

確かに先ほど鏡で見た自分は女に見えた。

だからといって、女装姿で胸を張れるほど図太い神経は持ち合わせていないのだ。

エレベーターに乗り込み一階に着くまで二人の間に会話も無く、誰にも会わなかった。

だがロビーに着くと当たり前のように沢山の人が居て、明るい室内がいつも以上に眩しく感じた。

出来るだけ下を向き、おずおずと歩いて行く。

履きなれないヒール(ローヒールだが)に苦戦しているというのもある。

自意識過剰か、人の視線が突き刺さるように痛い。

三城には解っているのだろうか、恥ずかしくて死んでしまいそうなこの心境が。

部屋を出てから俯きっぱなしの幸田に、ロビー隅の一目の少ない場所で立ち止まった三城は小声で囁いた。

「顔を上げろ。下を向いている方が不自然だ。」

簡単に言ってくれる。

かなりの勇気を振り絞り、幸田はそっと顔を上げて三城を見上げた。

羞恥から瞳は潤んでいるだろう。

襟足を伸ばされたウィッグの髪がハラリと肩から落ちる。

「綺麗だよ、誰よりも」

見上げた先には優しく微笑む三城の顔があった。

三城の大きな手の平が幸田の頬をそっと包み込み、視線を外せずにいる幸田の唇に、柔らかい物が触れる。

それが三城の唇だと気づいた時には、その唇は離れて行ってしまっていた。



 
*目次*