三城×幸田・クリスマス・編・7



いくら人目のつきにくい場所だとはいえ、公衆の面前でキスをされた。

生まれて初めての体験に、今までとは種類の違う羞恥を全身から感じた幸田は顔が真っ赤になるのが自分でも解るほどだった。

「機嫌が直ったか?」

あたかも幸田が拗ねていたとでも言いたげに三城はからかい半分で笑い、再び幸田の腰に腕を回して歩き出す。

ロビーの中央を突っ切ってホテルを出るまで、相変わらず周囲の視線を感じてしまったし正面を向く事は出来なかったが、完全に俯く事もなかった。

恥ずかしくてたまらない。

こんな恥さらしな姿を知人に見られたら、と思うと叫び出しそうにもなる。

けれど隣には三城が居て、その三城が満足そうに笑うならそれでいいのかも知れない、とも思うのだ。

ホテルの前からタクシーに乗り込み、三城が告げた目的地に向かった。

タクシーなどという密室で、運転手に女装がバレやしないかとヒヤヒヤしていた幸田は目的地を聞き逃していたが、それを伺う為に喋る事に躊躇する。

鵜呑みにした訳ではないが、三城と椎名が「女に見える」とは言ってくれた。

それを(頑張って)信じたとしても、流石に声はまずいだろうと思ったからだ。

結局三城をチラリと見ただけで、膝の上に置いた拳を見つめてじっとした。

救いだったのは、無愛想で無駄な会話をしてこないタイプの運転手だった事だろう。

バックミラー越しに何度か見られた気がするし、実際一度目も合ったが何も言ってこなかった。

窓の外の風景にとても興味があるふりをして、数分とも数十分とも思える時間を無言で過ごす。

免許は持っていても車を所有していないため、あまり運転する機会の無い幸田は細かい地理に詳しくは無く、今何処を走っているかなど、後ろの席に座っていては余計に解らなかった。

「この辺で。」

三城の凛とした声が横から聞こえ、タクシーが停車する。

タクシーから降り、その建物を見てようやく自分の居場所を知った。

到着したのは、幸田も前くらいは通った事のある横浜市内のシティーホテルだ。

このホテルも、いつも待ち合わせに使うホテルと引けを取らない高級店で、幸田には無縁の場所だった。

降りたタクシーが去り、声が聞こえる距離に誰も居ない事を確認すると、三城は幸田の腰を当然のように抱き寄せながら耳元で囁く。

「良いレストランがあるんだ。お前も地元に戻って来たのは久しぶりだろ?」

「覚えてくれていたんですか!?」

「まぁな。」

幸田の地元は此処横浜なのだ。

いつか何かの話しで言ったのだろうが、簡単に流した気がする。

それをきちんと覚えてくれていたのはとても嬉しい。

幸田の頬が微かに紅潮してしまい、傍らに立つ三城に身体を摺り寄せると、照れ隠しに両手で持ったハンドバックの持ち手をキュッと握り締めた。

「ありがとう」と言うのも変な気がして、言葉が出ない。

最上階のレストランを予約していると言う三城に連れられてホテルに入り上を目指す。

弾む気持ちは周囲を見渡す余裕すら与えてくれない。

高層の天辺にある、暖色系で統一された洒落た店構えのフレンチレストランに入ると、横浜の街を一望出来る窓際の席に通してくれた。

帰るべき家の無い幸田が久しぶりに訪れた地元の町並みは、それでも尚、優しい色で輝いていた。



 
*目次*